免疫システムの働きを防災、減災に応用する(写真:写真AC)

単純化免疫システムの特性

一般に免疫の仕組みは極めて複雑であり、未解明な点が多い。ノーベル賞を授与された利根川博士や本庶博士らの研究が属する、実にホットな分野でもある。21 世紀の知の革命といわれる新しい科学のパラダイムであり、複雑系の典型例であることは間違いない。

前回の[図2]で紹介した液性免疫を、工学的に応用しやすいシステムとして筆者が簡略化したのが[図3]の単純化免疫システムである(文献【3】を参考)。

画像を拡大 [図3]単純化免疫システムの進化原理(進化は進化をもって制する)

同図は文献【4】で提示されたものから、抑制過程を削除するなどさらに単純化し、一部改変した。「記憶細胞」は一度感染して排除できた抗原のタイプを記憶し、以後、必要なときに有効な抗体を産生する細胞である。「抗体産生細胞」は遺伝子レベルで自律的に淘汰、交叉、突然変異、増殖を繰り返し、常に多様な抗体の産生が可能な待機中の細胞である。これをもとに、震災時の防災や減災への応用性に考察を加えてみたい。

本システムが有する特性は、次のようなものである。
①多様性(淘汰、交叉、突然変異)
②分業性(自律分散、適応性)
③補充性(増殖)
④進化性
⑤ユビキタス性

上記は文献【5】からヒントを得ているが、ここでは、進化とユビキタスの追加を行っており、防災時に免疫の特性を発揮させるのに不可欠の特性となる。

※参考文献
【3】河村廣「地震防災学の定量的グランドスキーム-免疫防災システムとその設計-」(日本建築学会大会学術講演梗概集・九州)2007 年8 月、pp.449~450
【4】大内東、山本雅人、川村秀憲、柴肇一、高柳俊明、當間愛晃、遠藤聡志「生命複雑系からの計算パラダイム」(森北出版)2003 年8 月
【5】多田富雄「免疫の意味論」(青土社)1993 年4 月第1 刷、1996 年11 月第31 刷