2017/12/15
防災・危機管理ニュース

一般社団法人日本医療資源開発促進機構は11日、「防災対策、自治体が抱える課題と問題点を考える」と題した第13回都市防災と集団災害医療フォーラムを開催した。冒頭では、今年の後藤新平賞を受賞した同法人の山本保博会長が受賞記念講演として登壇。「私たちは、現在の東京都の礎を築いた後藤新平が残した『人のお世話にならぬよう、人のお世話をするよう、そして報いを求めぬよう』というボランティア精神を忘れないようにしなければいけない」と述べ、国際災害医療活動における問題点について講演した。

続いて講演した独立行政法人労働者健康安全機構理事長の有賀徹氏は「地域包括ケアと自治体の役割について」と題し、「人間らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的にされる体制の構築が必要」とし、地域包括ケアシステムの重要性と自治体のあり方について言及した。
一般社団法人日本集団災害医学会理事の小井土雄一氏は、「災害保健医療において自治体に期待すること」と題し、熊本地震を受けて厚労省が今年7月5日に発出した「大規模災害時の保健医療活動に係る体制の整備について」について解説した。2017年に発生した熊本地震では多くの医療チームや保健師チームらが被災地に入り被災者のケアを行ったが、それらの情報がうまく共有されなかった場合があった。
新しい体制では都道府県に「保健医療調整本部」を設け、全国から派遣されたDMATや看護師チーム、保健師チームらとの連絡窓口になり、相互を連携させる役割を持つ。それらを実現させるための事例として阿蘇地域災害医療復興連絡会議(ADRO)の活動を紹介。「ADROは地元の人が主催し、DMATなど外部の人が運営。医療と保健の問題を一体に持ち寄り、ADROが考えて支援者は役割調整を受けた。最終的には、地元の医療・保健担当者に返す支援を目指した」とし、災害時医療の受援のあり方を示した。

その後、元港区危機管理室長の青木康平氏(現同区教育長)、世田谷区危機管理室長の澤谷昇氏、千代田区政策経営部災害対策・危機管理課長の山﨑崇氏らを招いて「防災対策、自治体が抱える課題と問題点」と題したパネルディスカッションを実施。青木氏は「港区はタワーマンションが多い地区があることに加え、外国人が多いことが課題。港区は人口の7.6%にあたるおよそ1万9000人が外国人で、82の大使館が存在するため出身国は128カ国にのぼる。インターナショナルスクールも29校あり、外国人の子供も多い。これらの方々への災害時に情報弱者となってしまう可能性が高い」とした。
澤谷氏は「現在90万人を突破し、10年後には100万人を突破すると言われている世田谷区は、区を5支所に分けて防災啓発や避難訓練に取り組んでいる。さらに27の町づくりセンターで、それぞれの地域の特性を反映した地区防災計画を全区域で作成し、地域防災計画に反映させている。課題は190以上ある町内会が高齢化し、『60代でも若手』の状態であること。若手を参加させるために、もっと楽しいイベントなどを開催していきたい」と話した。
一方で山﨑氏は「千代田区は(他区と)事情が違い、人口は6万人だが昼間の人口は85万人に上り、大災害時には50万人の帰宅困難者対策が発生するといわれている。4つの地域協力会で帰宅困難者対策を実施するなど、区民、事業者、学生らが「協助」した取り組みを目指している」とし、それぞれの自治体が抱える課題について話し合われた。
(了)
リスク対策.com 大越 聡
- keyword
- 災害医療
- 都市防災と集団災害医療フォーラム
- 熊本地震
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方