2015/03/25
誌面情報 vol48
-->
ERMのリーダーはCFO
日本IBMの体制や取り組みについてご紹介します。IBMコーポレーションとしてのガバナンスが2008年くらいから大きく変わってきて、弊社では2009年からERMが導入されました。そのためERMは考え方ではなく、体制を示しています。
ERMで特定した脅威に対してBCPを策定し、BCPの中に災害対策があります。災害に対応する組織を弊社の中ではCMT(クライシス・マネジメント・チーム)と呼んでいます。ERM、BCP、CMTにそれぞれ担当役員がいて、体制が構築されています(図5)。
弊社に特徴的なものかもしれませんが、ERMを担当する部門はファイナンス、いわゆる財務・管理部門です。したがって、ERMのリーダーはCFO(財務担当最高責任者)になります。
ERMのなかで、特に会社として取り組まなければいけない上位のリスクに関しては、それぞれ担当のオーナー(担当役員)が任命され、解決を図ります。そしてその対応状況に関してはヘッドクオーター(最高経営会議)に報告していく仕組みになっています。現在はその中のリスクの1つとして、BCPがあります。BCPを担当している役員は、COO(最高執行責任者)です。2013年5月まではBCPはCMTに組み込まれていました。その後BCPを独立させ、全社レベルでBCPに取り組むことになりました。BCPを策定していた部門は、それまで会社の中で半分くらいでしたが、現在では全部門で策定しています。
歴史的に体制を見ると、CMTの担当部門にはいろいろな考え方があると思いますが、弊社の場合ではサービス部門の担当役員がCMTを担当することになっています。その後ERMがグローバル全体で立ち上がり、CMTからBCPが独立して作られました。この3つの体制が組み合わさって、現在の弊社のリスクマネジメントが構築されたということになります。
ERM体制の確立・連携のポイント
弊社の体制はERM、BCP、CMTによって成り立っていますが、それとは別に危機管理の観点では3つの考え方が必要だと考えています。それは「Administration(管理)」「Planning(計画)」「Execution(実行/対応)です。」Administrationを担うのは事務局です。事務局が常に何をするべきか考えます。取り組むべきリスクは何か、何を考えなければいけないのか、どのように社員を教育して、どのような体制で備えるかの方針などもここが決めます。Planning体制もExecution体制も、Administrationで決定します。
Planningは決定機関です。リスクを評価し、計画に対する検討と決定を行います。Planningの定義は、「計画を策定する」ことです。ERMは基本的に役員クラスが約10人が集まる体制となっていて、Planningが主要な役割だと考えてください。Administrationは事務局で、実務をよくわかっている社員が対応するので、役員はほとんどいません。
Planningはほぼ役員会レベルなので、視点が高く、会社レベルでリスクを見ることができます。AdministrationとPlanningが相互作用し、日々のリスクマネジメントが進められていきます。それらに対し、Executionは、何かあった時の体制です。
現在の日本IBMは、ERM、BCP、CMTの3つの体制に、さらにこの3つの機能の視点が加えられますから、多少複雑になっています。難しいところになりますが、これらのことを日々考えながら、企業と言う限られたリソースの中で全体最適と個別最適、もしくは集中と分権のバランスを図っていくことが大事なのかと思います。
日本IBMのBCPへの対応
危機対応における日本IBMのポリシーは以下の3つです。
①お客様への影響の最小化
②最低限の企業機能維持
③社員の職場における安全確保、社員・家族の安否確認
あえて優先順位をつけるとすれば、まず社員の安全確保、社員・家族の安否確認です。次にお客様の影響への最小化があります。日本IBMは社会機能維持事業者になっていませんが、お客様である銀行や公的機関は社会機能維持事業者に指定されています。そこで果たすべき責任には全力で取り組まなければいけません。そのための体制は図6のようになっています。また、事業領域での事業継続計画を考える視点は、「戦略とビジョン」「組織・人事施策」「プロセス」「アプリケーションとデータ、テクノロジー」「設備」と、このようなレイヤーで考えています。これは1つの参考として考えてください。
IBMが考えるBCP検討プロセスは図7のようになります。脅威の想定から8つのステップで、評価(Assess)、計画(Plan)、実行(Execute)を行います。実際の対策として、何のために、どのようなことを計画するのか、そのための課題は何かなどをまとめたBCP文書を整備することを求めています。そして最低でも1年に1度、もしくは業務が変わった場合など必要に応じて見直してもらうようにしています。
最後は、危機管理対策の考慮点です。基本的に、現状の経営資源に過大な変更をもたらさないことが前提です。そのためには現状の経営資源を活用した対策の立案や、継続すべき業務の最小化などを考えなければいけません。もう1つは、首都圏の復旧を想定に入れ、初動を明確化するという観点を持っています。また、被災した本部と代替本部の役割と権限に関しても明確化しています。
(資料提供:齋藤守弘氏)
誌面情報 vol48の他の記事
おすすめ記事
-
サプライチェーン強化による代替戦略への挑戦
包装機材や関連システム機器、プラントなどの製造・販売を手掛けるPACRAFT 株式会社(本社:東京、主要工場:山口県岩国市)は、代替生産などの手法により、災害などの有事の際にも主要事業を継続できる体制を構築している。同社が開発・製造するほとんどの製品はオーダーメイド。同一製品を大量生産する工場とは違い、職人が部品を一から組み立てるという同社事業の特徴を生かし、工場が被災した際には、協力会社に生産を一部移すほか、必要な従業員を代替生産拠点に移して、製造を続けられる体制を構築している。
2025/11/20
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/11/18
-
企業存続のための経済安全保障
世界情勢の変動や地政学リスクの上昇を受け、企業の経済安全保障への関心が急速に高まっている。グローバルな環境での競争優位性を確保するため、重要技術やサプライチェーンの管理が企業存続の鍵となる。各社でリスクマネジメント強化や体制整備が進むが、取り組みは緒に就いたばかり。日本企業はどのように経済安全保障にアプローチすればいいのか。日本企業で初めて、三菱電機に設置された専門部署である経済安全保障統括室の室長を経験し、現在は、電通総研経済安全保障研究センターで副センター長を務める伊藤隆氏に聞いた。
2025/11/17
-
-
-
-
-
社長直轄のリスクマネジメント推進室を設置リスクオーナー制の導入で責任を明確化
阪急阪神ホールディングス(大阪府大阪市、嶋田泰夫代表取締役社長)は2024年4月1日、リスクマネジメント推進室を設置した。関西を中心に都市交通、不動産、エンタテインメント、情報・通信、旅行、国際輸送の6つのコア事業を展開する同社のグループ企業は100社以上。コーポレートガバナンス強化の流れを受け、責任を持ってステークホルダーに応えるため、グループ横断的なリスクマネジメントを目指している。
2025/11/13
-
リスクマネジメント体制の再構築で企業価値向上経営戦略との一体化を図る
企業を取り巻くリスクが多様化する中、企業価値を守るだけではなく、高められるリスクマネジメントが求められている。ニッスイ(東京都港区、田中輝代表取締役社長執行役員)は従来の枠組みを刷新し、リスクマネジメントと経営戦略を一体化。リスクを成長の機会としてもとらえ、社会や環境の変化に備えている。
2025/11/12
-
入国審査で10時間の取り調べスマホは丸裸で不審な動き
ロシアのウクライナ侵略開始から間もなく4年。ウクライナはなんとか持ちこたえてはいるが、ロシアの占領地域はじわじわ拡大している。EUや米国、日本は制裁の追加を続けるが停戦の可能性は皆無。プーチン大統領の心境が様変わりする兆候は見られない。ロシアを中心とする旧ソ連諸国の経済と政治情勢を専門とする北海道大学教授の服部倫卓氏は、9月に現地視察のため開戦後はじめてロシアを訪れた。そして6年ぶりのロシアで想定外の取り調べを受けた。長時間に及んだ入国審査とロシア国内の様子について聞いた。
2025/11/11





※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方