岩手大学客員教授・越野修三氏

これからの危機管理
インタビュー
岩手大学客員教授 越野修三氏

非常事態に中心的な役割を求められるのが危機管理担当者だが、求められる能力は何か。また、平時にはどのように備えればよいのだろうか。岩手大学で防災危機管理に係る人材育成に取り組んできた越野修三・同大学客員教授は、危機管理担当者に求められるのは、非常時に際して「少ない情報から状況判断 して、目標は何なのか道筋を示すこと」だと語る。

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訓練なしで危機対応は絶対うまくいかない

――改めて、危機管理担当者は、どのような仕事を果たす役割なのでしょうか?
企業であれ自治体であれ、当然ながら危機管理上の責任は、その組織のトップにあります。トップが意思決定し、指揮を執る。組織はその指揮に応じて動き、トップはその結果に全責任を負います。

しかし、全てのトップが危機管理に長けているわけではありません。しかも組織が大きくなればなるほど、トップの意思決定が隅々まで届かなくなる。トップを補佐する参謀的な役割の人が必要になります。参謀はトップの名前において指揮を執る役割。危機管理担当者は、緊急事態において、この参謀を務める役割と言えます。

組織が大きくなれば参謀一人では対応できませんから、参謀本部が必要になります。「危機管理対策本部」などと呼ばれる、危機管理を担当するチームです。ここは直面する非常事態に対処するための情報収集機能や、作戦立案機能、ロジスティック機能などを有することになります。

危機管理担当者は、これらの機能をうまく運用しなければトップを補佐できません。ですから危機管理担当者は、これらの機能をうまく運用するための能力とスキルを身に付けることが求められます。

大きな災害が発生した時、一つの部署だけでは対処できません。仕事は一つの部署では到底収まらない。各部署の仕事をコーディネートすることも危機管理担当者の仕事です。

ですから、普段から縦割りを超えた仕組みを作っておくことが必要です。それはトップの役割。意識付けをするためには組織づくりをして訓練すること、トップが危機管理担当者に命じて訓練することです。訓練なしで危機対応がうまくいくことは絶対にありませんから。

危機管理担当者は、事前対応、応急対応、復旧対応という役割があります。事前対応は、いかに災害をイメージして準備するかが問われる。災害時にはさまざまな想定外の場面に対処する応急対応をしなければならない。そして復旧対応では、単に元に戻すのではなく、次に災害が発生した時に対応できるようにしていく能力が求められます。

本当の危機に遭遇した時には、マニュアルは役に立ちません。マニュアルを使って専門家に任せておけばなんとかなる事態は、本当の意味での危機ではない。本当の危機は、訓練したことがない新しい課題が次から次へと発生します。東日本大震災はまさに経験したことがない事態が次から次へと襲ってきました。

その上で、危機管理担当者に求められるのは、少ない情報から、解決すべき課題は何なのか状況判断して、目標は何なのか道筋を示すことです。