こんにちは。特定社会保険労務士の毎熊典子です。

働き方改革関連法の施行など労務分野の法規制に顕著な変化がみられる昨今、労務コンプライアンスは企業にとって重要事項となっています。特に、新型コロナの影響により、社会、経済、そして人の暮らしの在り方が大きく変化するなか、ニューノーマル時代に即した労務管理体制の構築が求められるようになっています。そこで、労務関連のトピックスを取り上げ、リスクマネジメントの観点から労務管理上のポイントについて解説します。

新型コロナの影響によりテレワークが浸透する中で、空いた時間を使って副業・兼業を行うことを希望する人が増えています。企業においても、大企業や先進的企業を中心に「副業人材」を積極的に採用する動きが注目を集めています。

このような状況の中で、2020年9月に厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(以下、「ガイドライン」と言います。)が改定されました。そこで、ガイドラインを踏まえ、副業・兼業に関わる労務管理のポイントについて解説します。

1. 副業・兼業のメリット・デメリット

政府が副業・兼業を促進する理由は、副業・兼業は、労働者、企業、そして社会全体にとってメリットがあると考えられているからです。

労働者にとってのメリットは、本業を続けながら別の仕事に就くことで、主体的なキャリア形成ができ、やりたいことに挑戦することで、自己実現の追求が可能になることです。所得も増加し、将来の起業・転職に向けた準備もリスクの小さい形で進めることができます。

他方、企業のメリットは、副業・兼業を通して従業員が社内では得られない知識やスキルを得て成長し、自律性・自主性が促進されることです。社外から得る知識・情報や人脈が新たな事業機会につながる可能性もあります。また、副業・兼業を希望する人が増える中で、副業・兼業を認めることは、優秀な人材の獲得や流出防止につながり、企業としての競争力の向上が期待できます。

そして、社会全体にとっても、副業・兼業は、オープンイノベーションや起業の手段として有効であり、地方創生に資すると考えられています。

しかし、ガイドラインでは、副業・兼業には留意すべき点も多いことが指摘されています。副業・兼業を行うことで労働時間が長くなるため、労働者は、労働時間や健康管理を自ら行うことが必要となります。また、職務専念義務や秘密保持義務、競業避止義務など、雇用契約に基づく義務に違反しないように注意しなければならなりません。さらに、所定労働時間が短い仕事を掛け持ちする働き方をした場合、雇用保険や社会保険(厚生年金保険、健康保険)の適用を受けられないことがあります。

企業としても、副業・兼業を行う従業員の労働時間管理や健康管理をどのように行うか、職務専念義務や秘密保持義務、競業避止義務をどのように確保するかは、大きな課題です。副業・兼業の取り扱いについては、企業としてのメリットや課題だけでなく、従業員のメリット・デメリット、さらには社会的要請も踏まえて検討することが求められます。

画像を拡大 (出典:「兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する調査事業研究会提言 ~パラレルキャリア・ジャパンを目指して~」平成29年3月中小企業経営支援部創業・新事業促進課 経済産業政策局産業人材政策課)