500点満点中400点以上は、わずか6.6%

株式会社電通パブリックリレーションズ内の企業広報戦略研究所はこのほど、東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センターと、企業の「危機管理力」を調査した結果を発表した。それによると、多くの企業がこれまでに「事故や火災」「欠陥商品の回収」「大規模災害発生による事業停止」「個人情報・顧客情報の漏えい」などの危機に直面した経験を持ちながらも、危機管理の取り組みについてはまだまだ不十分な点が多いことが明らかになった。具体的には、危機管理上の重要要素を「予見力」「回避力」「被害軽減力」「再発防止策」「リーダーシップ力」の5つに分類して取り組み状況を評価。総合点では500満点中400点を超えた企業はわずか6.6%で、53.1%の企業が200点未満となった。項目別では、比較的に「予見力」「被害軽減力」やに関する取り組みが低いことが分かった。調査は、2015年2月4日から3月13日にかけ、東京証券取引所一部上場企業の1825社と日本に拠点を置く外資系企業1170社を対象にアンケートを実施、有効回答数は392社。また、メディアや専門家の視点を調べるため、メディア関係者や専門家にも回答をしてもらった(メディア関係者は177人、専門家は10人から回答を得た)。

危機管理を5項目で評価 
調査の目的は、近年、危機管理の不備が企業経営に重大な影響を与えることへの認識が高まっていることを受け、企業の危機管理の取り組みを、独自に設定した5つの視点で数値化し、実態を把握すること。 

指標としたのは①予見力(将来、自社に影響を与える可能性がある危機を予見し、組織的に共有する力)、②回避力(危機の発生を未然に予防回避、または、危機の発生を事前に想定し、影響を提言する組織的能力)、③被害軽減力(危機が発生した場合に、迅速・的確に対応し、ステークホルダーや自社が受ける被害を軽減する組織的能力)、④再発防止力(危機発生の経験と向き合い、より効果的な危機管理や社会的信頼の回復を実現していく組織的能力)、⑤リーダーシップ力(組織的な危機管理向上に対するトップなど経営陣のコミュニケーション・実行力)の5つ。

それぞれのレベルを評価するため、5つの項目に対し、各10問の設問に対する取り組み状況を〇×方式で聞いた。

5項目すべて100点なら500点満点となる。

結果は、400点以上のSクラスが26社でわずか6.6%、300点~400点未満のAクラスが70社。200~300点未満のBクラスが88社、100~200点未満のCクラスが101社、100点未満が107社となった。平均点は198点だった。 

分野別では、最も平均スコアが高いのが回避力(47点)で、以下、リーダーシップ力(43点)被害軽減力、(39点)、予見力(38点)再発防止力、(31点)の順。ただし、「再発防止力」については過去に実際に危機を経験した組織を対象にした設問が多かったため、同じ基準で比べることは難しいとする。 

業種別には、電力・ガスがすべての危機管理力領域で群を抜いており、総合スコアも圧倒的に高かった。次いで、食品、運輸・倉庫が2、3位。いずれも回避力が相対的に高い点で4位以下の業界と共通している。項目別の評価結果 ここからは、各項目の設問と、評価結果について概説する。

1.予見力
ソーシャルメディア上の評判・風評を把握する仕組みを導入していない 
最も取り組みが高かったのが「業界・競合企業で発生した危機を把握・研究している」と「自社に影響を与える可能性がある政策方針や行政当局の監督方針の情報収集・分析活動を行っている」ともに52%。で、次いで「自社の経営リスクを予測し、定期的に役員に報告している」が50%と続く。上位2つでさえ50%をわずかに超えた程度という結果になった。一方、専門家の評価では「業界・競合企業で発生した危機を把握・研究している」に加え、「自社にとって危機となりうるソーシャルメディア上の評判・風評を把握する仕組みを導入している」が最も重要な取り組みとされたが、後者に至っては、取り組んでいる企業はわずか19.9%だった。

2.回避力
「危機管理の専門部門」が設置されているのは41% 
「危険の発生(災害を含む)による損害に備えた保険に加入している」が75%と、全項目・全設問を通して最も取り組み率が高かった。しかし、どのような保険に加入しているかまでは踏み込んで聞いていないため、一般的な火災保険への加入でも取り組んでいると回答している可能性は否定できない。次いで高かったのが「自社の経営に影響を与える可能性がある危機それぞれに責任部門を定めている」で65.3%。「従業員(パート・アルバイトを含む)に対し、危機管理に関する啓発活動を行っている」も60.2%と高かった。一方で、専門家が重要度が高いとしたのは「全社的な危機管理を定期的に検討する場が設けられている」「危機管理の専門部門が設置されている」など。しかし、後者については41.3%にとどまった。

3.被害軽減力
マニュアル整備が突出 
「緊急事態に対応するための全社的な体制・プロセスがマニュアルガイドライン化されている」(70.9%)が突出して高く、2位以下は「トップ不在時の危機対応プロセスが具体的に定められている」(49%)、「定期的(年に1回以上)に危機発生時のシミュレーショントレーニングを実施している」(45.9%)と、50%を下回る結果となった。専門家も「緊急事態に対応するための全社的な体制・プロセスがマニュアル・ガイドライン化されている」を最重視した。外部PRコンサルティング会社や危機管理会社との連携や、記者会見の演習・トレーニングに関する取り組みは低かった。

4.再発防止力
危機後にマニュアル・ガイドラインの改定が49.7% 
再発防止力については、過去に発生した危機を踏まえた設問構成となっていたため、すべての取り組みが50%を下回る結果となった。 

その中で最も高かった取り組みが「自社で過去に発生した危機を踏まえて危機管理マニュアル・ガイドライン等の改定を行っている」(49.7%)、次いで「自社で過去に発生した危機について同様の事象が発生する可能性を低減する仕組みを構築している」(48%)、「自社で過去に発生した危機と同様の事態が発生した場合に被害を最小限に抑える改善策を行っている」(46.7%)と続く。 

専門家が重要とした「過去に自社で発生した危機について社内外の主要ステークホルダー・有識者から意見を伺い、再発防止・改善に役立てている」はわずか13%にとどまった。

5.リーダーシップ力
経営陣が危機管理委組織の一員は61.2% 
リーダーシップ力については、危機管理ではすべての土台となるほど重要な項目と言えるが、結果は「トップなど経営陣が全社横断的な危機管理組織(危機管理委員会等)の一員となっている」が最も取り組みが高かったものの、それでも61.2%にとどまった。2位は「重大化する恐れのある危機をトップなど経営陣が早期に共有する仕組みが運用されている」(57.1%)、「危機管理に責任を持つ取締役がトップ以外に定められている」(49.5%)と続く。 

専門家の視点で重要度が高いとされた「トップなど経営陣が率先して組織の危機管理力向上に資する行動・発言を行っている」は43.9%にとどまった。

約34%がこれまでに「事故・火災」を経験 
調査では、国内、海外、グループ会社を含めて、これまで直面した「危機」についても聞いたところ、回答企業の約34%が「事故・火災」を経験。次いで「欠陥商品の回収(リコール)」(25%)、「国内での大規模災害発生の事業停止/顧客への危機発生」(24.5%)、「個人情報・顧客情報の漏えい」(19.6%)と続いた。 
一方、今後企業にとって危機となりうる事象としては「毒物・食中毒等による顧客の健康被害」(42.1%)、「反社会勢力との癒着」(35.7%)、「不適切な決算・財務報告」(32.7%)が最も社会からの批判が強いと認識されていることが分かった。 

このほか、業種別の遭遇危機トップ3についても参考資料としてまとめている。 
本件の問い合わせは企業広報戦略研究所(TEL.070-69414938)。