近年の水害で多くの高齢者が犠牲になったことを重くとらえ、要支援者の避難行動支援に関する取組指針が8年振りに改定(写真:写真AC)

指針改定とその経緯

2021(令和3)年5月20日、約8年振りに「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」が改定となった。近年の、特に水災害で多くの高齢者らが犠牲になったことを重くとらえ、本格的な改定となった。改定のもととなったのは、本連載第18回で述べた内閣府「令和元年台風第19号等を踏まえた高齢者等の避難に関するサブワーキンググループ」での資料、議論と最終報告書である。

特徴を一言で言えば、避難行動要支援者の個別避難計画を法律事項とし、その作成を市区町村の努力義務としたことである。そして、福祉専門職の関与を強く推奨している点が、これまでと大きく異なっている。

もし、東日本大震災時に個別避難計画が整備されていたなら、高齢者、障がい者の逃げ遅れや支援者の被害はどれほど減っただろうか。また、西日本豪雨災害において倉敷市真備町では70代以上の高齢者の犠牲が約8割にのぼっているが、個別避難計画があったら、どれほど助かっただろうか。

私はこのサブワーキングの座長を引き受けた時、今度こそ、本当に高齢者、障がい者の命を守る制度設計を提言しなければならないと固く心に誓った。

高齢者、障がい者の避難について国が最初に議論を始めたのが2004年度の「集中豪雨等における情報伝達及び高齢者等の避難支援に関する検討会」である。その後も2年間にわたって検討したにもかかわらず、東日本大震災ではほとんど実効性がなかった。

高齢者らの災害避難に関する議論は以前からあったが(写真:写真AC)

さらに、東日本大震災発生後の2012年度に「災害時要援護者の避難支援に関する検討会」で、日常から高齢者、障がい者らを支援している福祉関係者の個別計画への参画が重要だと提言したが、2013年8月の「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」では福祉関係者の役割はほとんど取り上げられなかった。

その後も、災害で高齢者をはじめ多くの人命が失われていった。

制度設計においては、現実とあるべき姿との乖離をしっかりと見据え、少なくともちょっと背伸びすれば届くという実現可能性が求められる。その意味で、自治体でのよい事例は不可欠だ。今回の検討会では大分県別府市や兵庫県全域で取り組んだ事例が、いわば暗闇での松明のような役割を果たしてくれた。