区民目線で日頃から防災を徹底

一般社団法人保土ケ谷区区民利用施設協会

横浜市にある保土ケ谷公会堂は、災害時には帰宅困難者を受け入れる一時滞在施設になる。地域住民らでつくる一般社団法人保土ケ谷区区民利用施設協会が指定管理者として同施設の管理・運営にあたり、災害に備え、アイデアを出し合い優れた防災活動を実施している。キーワードは「区民目線」。

横浜市の中央に位置し、起伏に富んだ土地にマンションや住宅が密集する横浜市保土ケ谷区。江戸時代には日本橋から4つ目の東海道の宿場、保土ケ谷宿が置かれ、歌川広重の『東海道五拾三次』には区内を流れる帷子川(かたびらがわ)が描かれている。その帷子川のそばにある保土ケ谷公会堂を管理・運営しているのが一般社団法人保土ケ谷区区民利用施設協会だ。

公会堂は1982年に建設され、現在の座席数599席のホールと会議室などを備える。催し物や団体の発表の場でもあり、地域の文化的拠点になっている一方で、発災時には帰宅困難者のための一時滞在施設になる。 

同協会では、2012年から指定管理者として公会堂の管理・運営にあたっている。 

公会堂館長の志田重久氏は「日頃の防災活動は当然しっかりやっています。まず、来館者と職員との避難経路のチェック。通路にお客様が荷物を高く積んでいないか、通路をまたいで配線していないかなど細かいところまで確認を行います。運営スタッフだけでなく清掃業者にも協力をお願いしています」と語る。 

当たり前のように聞こえるが、現場を見れば、その徹底ぶりに驚かされる。利用団体との打ち合わせの際には、事前に利用団体にホームページにある避難経路のダウンロードをお願いし、避難経路の事前の確認を求めている。

さらに、施設内の至る場所に避難経路を貼り出し、誘導員係が立つ場所などを確認している。 

「利用当日のお客様は自分たちの発表などで頭がいっぱい。いざというときのための事前確認です」と同協会事務局長の橋本隆氏は説明する。 

日々の館内巡回では火の元にもなるたばこの吸い殻を拾い、AEDの動作確認を毎日行うなど余念がない。閉館前の施設チェックシートには確認する場所すべての画像を入れ、万が一の点検漏れを防いでいる。また、ネジ類の緩みによる照明器具の落下を防ぐため、法定点検以上に頻繁に点検を行うなど安全管理にも力を注いでいるという。 訓練も定期的に行っているが、驚くべきは、毎年、利用団体の協力を得て実施していること。今年は、踊りの教室を開く団体に協力をしてもらい、避難誘導の手順などを確認した。

区民が守る施設、区民を守る施設
「もともと保土谷区民は自分たちの街を自分たちで良くしようという愛郷心が強いのです。ですから私たちの訓練にも協力してくれますし、この施設を自分たちの財産として守りたいと思っています。当然私たちも、指定管理者というより、まずは区民として、この施設を守り、そしてこの施設が区民を守れるようにとの思いで運営にあたっています」と橋本氏は話す。 

行政に依存するのではなく、地域のことはなるべく地域で解決するというのが基本姿勢。施設では、地域住民や利用団体の代表者、学識経験者など8人の委員が参加する保土ケ谷公会堂委員会を設け、次年度の事業計画などを話し合って決めている。 

ほとんどが保土ケ谷区民ということもあり、職員の半数以上が徒歩10分圏内に住む。中には民生委員もいる。

職員であると同時に施設利用者でもあり、施設の運営が地域活動と密接につながっている。 

「何かあれば深夜でもすぐにかけつける」。地域一帯となった取り組みに館長の志田氏も胸を張る。

区民目線だからできる


「区民目線」の施設運営は至る所に見られる。保土ケ谷公会堂のそばに流れる帷子川は大地震の際に津波の遡上が想定される。公会堂には飲料水や保存ビスケット、保温用のアルミシート、トイレパックなど800人分が備蓄されているが、同協会が指定管理者になってから、地下室にあった備蓄品の保管場所を2階に移した。 



一時滞在者への情報提供にも目を見張るものがある。避難者の滞在名簿のテンプレートはもちろん、防災マップや災害用伝言ダイヤルの提示だけではなく、近隣にある学校などの避難所や病院、コンビニなども示された「帰宅困難者のための災害MAP」を作成し掲示する手はずを整えている。これも発災時には避難場所が分からず、とにかく自治体の施設に集まる人たちを想定してのことだ。満員で仮に施設に入れない時のための張り紙も用意している。 


区民でつくる協会とはいえ、民間企業での経験を積んだ職員も多い。こうした職員の中には、目標・計画の策定管理、改善活動に長けた人もいる。事務所には、施設職員の年間目標と計画が掲げられ、どれが達成できたかを可視化している。例えば、防災に関する職員の計画なら、救命講習は新人職員はじめ、全員が受けることにしている。防災とは直接関係ないが、エネルギー使用量なども月ごとにグラフで管理している。 

施設内の全ての部屋には利用者の声を集める箱を置き、苦情や意見に耳を傾けて改善を進めている。その結果も、すべて張り出し、利用者が意見を出しやすいような仕組みにしている。「お客様と一緒に小さなほころびでも見落とさないようにするためです」と志田氏は語る。1年間で改善した個所は数十にのぼる。暗いと指摘を受けて倉庫の照明を付け替えたことも災害対策としても効果的だ。


課題は通信手段
衛星携帯電話や無線など非常時の連絡手段がないなど課題もある。限られた予算内で、できないこともあるが、それでも事前の対策は怠らない。「全職員の携帯電話の連絡先を区に伝え、誰かと必ず連絡がとれるようにしている」(志田氏)。 

現在同協会では、保土ケ谷公会堂の他にも9施設の指定管理者を務めている。協会としてBCPを策定しているわけではないが、一時滞在施設に指定されているような施設については、優先的に機能させられるよう、職員には伝えているという。

東日本大震災の時には、同協会が指定管理者として運営・管理している「ほどがや地区センター」の近くでマンションが傾き、地域の住民が地区センターの隣にある公園に避難してくると、即、地区センターを避難場所として開放した。 

「地域活動と一体なので区役所の職員との関係も親密です。だから区ともしっかりと連携がとれます。発災時の地域情報を集めて区に伝えることもあります。職員には自分たちの街づくりという意識が根底にあり、それが強みです」と橋本氏は自信をもって話す。 

横浜市では900を越える施設で指定管理者制度を導入している。同制度を監督する横浜市政策局課長補佐の土田俊樹氏は「まずは利用者や職員の生命を守ることが大前提です。あとは施設の特性によってBCPを策定すべきかどうかは異なってくると思いますが、一時滞在施設などの重要施設については、当然今後も災害時の対応のあり方については考えていかなくてはいけないと思っています」と話している。



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先進市が求める災害対応


横浜市の手引きを読み解く

横浜市は、横浜みなとみらいホールや国際プールをはじめ大小900を越える施設の運営を指定管理者に任せている。2009年には指定管理者と手を携えた新しい公共サービスを目指して横浜市指定管理者制度運用ガイドラインを定め、これまでに8度の改定を重ねている。特徴的なのは「公」の理念を高らかにうたっている点だ。「施設管理運営業務のアウトソーシングの延長」ではないと明示し、対等・対話の原則、目標共有の原則、アイデアの保護と透明性確保の原則、役割分担と責任明確化の原則を掲げている。また、目標に基づくマネジメントとして明確な指標を整え、成果を数値化するように求めている。 

さらに市では、市と指定管理業者との間に、危機発生時の対応体制と報告・連絡体制など事前の取り決めを重視し、発災時に避難所や物資集配などの拠点となる施設には「指定管理者災害対応の手引き」に基づいた災害時などの体制整備を求めている。 

「指定管理者災害対応の手引き」は巻末参考資料まで含めるとA4用紙132枚に及ぶ。公の施設についての説明や施設の分類、事前の準備、発災時の対応について触れ、各施設の災害対応マニュアルのひな形や地域防災拠点の運営マニュアルを載せている。 

公の施設の分類により、マニュアルの確認項目などは変わってくる。具体的には、市職員やボランティア、避難者などを受け入れる受入型、空地および附帯設備を開放する開放型、通常業務の継続と施設の機能を生かした災害対応が求められる事業継続型の3つに分類している。 

事前準備と発災時の対応は各施設の災害対応マニュアルのひな形を見ると何をすべきか理解しやすい。このひな形から読み取れるのは確実な連絡体制の構築だ。勤務時間外の連絡先となる正・副の緊急時対応者だけではなく、施設にかけつける多くの参集者の緊急連絡先を把握することを求めている。例えば、職員の緊急時の参集条件となるのは、市内で震度5強以上の地震が発生した場合か、東海地震注意情報または東海地震予知情報が発表され警戒宣言が発令されたとき。そのため、どのケースのときに誰が参集し、施設の開錠を誰が担当するのかを細かく取り決める必要があるとしている。また、事前の準備として施設から区役所までと地域防災拠点、広域避難場所、地域医療救護拠点までの地図の記入を求めている。被害状況の報告はFAXかメールになるが、これらが利用できないと電話による口頭報告になる。 

地域防災拠点運営マニュアルは学校を例に、拠点立ち上げから点検場所など具体的な対応活動が詳細に示してあり、災害対応マニュアルを作成するどの施設にとっても参考になる。避難者数集計表や応援・物資報告書、避難場所の安全確認表、負傷者連絡票などのテンプレートが並び、各施設で事前準備したテンプレートに不足がないか確認するにも有効だ。