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「事業所に入る前にアルコール洗浄」という光景は、最近珍しくなくなってきている。インフルエンザなどのウイルスを除去するためには、アルコール消毒は有効な手段の1つだ。しかし、「アルコール洗浄しているからウイルス対策は大丈夫」と考えるのは間違いだ。最も大切なことは「石けんで、適切なタイミングで、正しい方法で」手洗いを行うことだ。家庭でも事業所でも使える「正しい手洗いの基礎」とは?

編集部注:「リスク対策.com」本誌2015年9月25日号(Vol.51)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年10月23日)

「インフルエンザなどの感染症対策には、もちろんアルコール洗浄も大切だが、最も重要なのは通常の石けんによる丁寧な「手洗い」と「換気」だ。アメリカで報告された学会のデータによると、手洗いを水洗いだけのグループと、石けんを使ったグループに分けたところ、水洗いだけのグループは石けんを使ったグループの3倍の人が風邪や肺炎にかかったというデータが出ている」

と話すのは慈恵医科大学分子疫学研究室室長の浦島充佳医学博士。「最近、アルコール消毒は定着しているようだが、肝心の石けんによる基本的な手洗いができていなければ意味がない」とする。では、なぜ石けんの手洗いが風邪予防に有効なのだろうか。

適切なタイミングで、正しい方法で

そもそも石けんとは、どのようなものなのだろうか?

洗剤、石けん、歯磨きなどを手がける大手メーカーライオン株式会社のヘルスケアマイスター山岸理恵子氏は、「石けんの歴史は古く、約5000年前にはシュメール人が使用していたとされています。一説によると羊を焼いた時に出る脂と灰が混ざり合い、自然にできたものが洗浄に利用されるようになったと言われます」と話す。 

石けんとは、主に動植物の油脂から製造される界面活性剤の一種だ。水になじみやすい親水基と、油と馴染みやすい親油基で構成され、汚れの成分である油に馴染むと同時に、親水基が水と結びつき、汚れを包んだような形で浮かして洗い流す(図1)。界面活性剤とは、油と水をなじませる役割を果たすもの全般を指し、自然界にも存在する。マヨネーズやチョコレートなどにも含まれているという。