2014/05/25
誌面情報 vol43
多機関と連携しやすい機能を重視
3.11後に求められる情報共有システム
災害時における組織間の「連携」が強く求められている。東日本大震災では、庁舎そのものが被災し行政機能が機能しない自治体への応援体制などが大きな課題となった。
民間企業では、部品工場などの被災により、サプライチェーンが寸断し生産活動が長期間麻痺し、その影響は世界にまで及んだ。こうしたことから、自治体の災害時相互応援協定の強化や企業のBCP連携など、「連携」に向けた取り組みが各方面で加速している。この連携を支えるのが情報共有システムだ。3.11を受け、今どのような災害時情報共有システムが求められているのか。
災害対策基本法の改正では、「発災時における積極的な情報の収集・伝達・共有の強化」が新たに盛り込まれ、市町村が被害状況の報告ができなくなった場合、都道府県が自ら情報収集等のための必要な措置を講ずべきことや、国・地方公共団体等が情報を共有し、連携して災害応急対策を実施すること等が改めて規定された。さらに、地方公共団体間の応急対策業務に係る応援規定や相互応援協定についても拡充された。
一方、民間企業についても、昨年12月17日に国土強靭化推進本部が発表した国土強靭化政策大綱では、「企業の枠を超えて、業界を横断する企業連携型のBCP/BCMを推進する」ことが盛り込まれ、行政、民間双方において連携を推進していく方針が打ち出されている。
これらの連携を行う上で欠かすことができないのが災害時情報共有システムである。
東日本大震災の通信被害
東日本大震災では、全国的な通信規制に加え、沿岸部を中心に、地震や津波の影響による通信ビル内の設備の倒壊・水没・流出、電柱の倒壊、さらに携帯電話基地局の被災など通信設備に甚大な影響が発生し、また、商業電源の途絶が長期化し、広範囲で長期間にわたり通信サービスが停止した。停電により、インターネット回線が使えなくなった地域も少なくない。
関東では電気は早い段階で復旧したため、メールやウェブは多くの地域で機能したが、東北地方の沿岸部では停電が長期化し、パソコンに接続したルーターやモデム、さらに光ケーブルに接続する光終端装置などが使えなくなり、全面的に使用できない状況に陥った。
こうしたことから、自治体や企業では、「被災直後から安否確認がとれない」「市町村や出先機関の支店や工場などの状況が数日間にわたり把握できない」「地域の被災状況が収集できない」「住民に情報提供ができない」といった問題が生じ、多くの組織が、同一組織・地域内ですら連携が取れない状況に陥った。
特に被害が大きかった沿岸部では、停電だけでも復旧に数日から長いところでは数カ月がかかり、通信も長期間にわたり途絶した状況が続いた。発災直後は支援を要請しようにも県や関係機関と連絡すらとれなかった自治体もある。また、支援が受け入れられたとしても情報共有ができず、人海戦術により被災状況を確認しながら対応を行うなど大きな課題が残った。
SNSの活躍
これらの課題を解決する情報共有システムを模索する動きが各地で始まっている。今号で特集した自治体、企業などの取り組みはその一例である。
これまでの情報共有は、特に自治体やライフライン企業においては、電話やファックスなどの通信回線に依存しすぎていた。電話で被害状況を受けて書き出す、関係機関から被害状況がファックスで送られてきたものを災害対策本部の壁に貼り出すといった形が主流だったと言っていいだろう。
イントラネットやメールにより情報共有を図ってきた自治体、企業も多いかもしれないが、イントラネットでは同一組織内での情報共有に限られ、他の組織とは情報共有が行えない。メールでも情報は一人の担当者が受けたものを災害対策本部で共有するなど伝言ゲームのようになっており、関係者や関係機関が同時に状況認識を一致させるには困難を要した。
先進的な自治体では多額な投資により立派な防災情報システムを整備していたところもあるが、専用端末で各拠点からの報告を災害対策本部に集約する一方通行のシステムで、対応状況の共有まではできなかったり、入力が難しすぎる、あるいは独自にシステムを作り込みすぎ、結果として他との連携が困難なものなど、それぞれ課題があった。
また、独自サーバー型の場合、メンテナンス費用やサーバーの被災対策としてバックアップなどの手間やコストが課題となっていたところもあるだろう。
一方、東日本大震災で活躍したのがソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)だ。宮城県では「東日本大震災被災地自治体ICT担当連絡会」が設置され、県内の各団体に寄せられた支援情報を被災自治体で共有し、どの自治体がどのような支援を必要としているかを一元的に把握できるSNSを立ち上げた。
この仕組みについては『自治体ICTネットワーキング』(櫻井美穂子國領二郎著、・慶應義塾大学出版会)に詳しく書かれているが、SNSへの参加は原則として自治体のみで、各団体に寄せられた支援情報は「投稿」という形でSNS上で共有する方法が採られたという。誰もが使いやすいSNSを、クローズドな環境上に構築したことで、信頼性の高い情報共有を可能にしたのだ。
これらを考えれば、今後求められる情報共有システムには以下のような機能が求められる。
1.通信回線に依存しすぎない 2.信頼できる情報を関係者間で共有できる 3.専用端末ではなく、あらゆるデバイスから入力ができる 4.使いやすい(日常的に使える) 5.他組織との連携が容易 6.被災しにくい 7.導入費、維持メンテ費用が安い |
さらにGIS(地理情報システム)との連動ができれば、情報共有は一層しやすくなる。災害時の時間が限られた中で、より早く関係者間で情報共有し、対応にあたれるようにすることが連携を行う上での重要なポイントだ。
ネットワークが途絶した場合に備える 残された課題はICTそのものが途絶した場合における情報共有だ。災害発生時、自治体では、住民安否確認や避難所運営といった、災害対応業務が突発的に発生する。東日本大震災では、これら業務を実施する際、停電や通信回線の断絶によりICTが全く利用できない状況に陥った。
東日本大震災の教訓を踏まえ、この課題の解決を目指した動きも始まっており、通常のICT環境がすべてサービス停止するといった前提条件の下、災害後突発的に発生する自治体業務などを遂行できる環境整備の実証実験なども行われている。
(了)誌面情報 vol43の他の記事
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