「事業継続及び防災の取組に関する実態調査を読み解く」最終回は、新型コロナウイルス感染症とBCPについて。内閣府の「令和3年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」では、新型コロナウイルス感染症拡大の際、BCP を発動したかどうかを聞いている。隔年で行われている調査のため、もちろん今回初めて出題された質問である。結果は、全体では「発動した」が 37.5%、「発動しなかった」が 55.3%。企業規模別では、大企業において「発動した」が 42.5%となり、中堅企業及びその他企業と比較して高くなっている。ただし、何をもって発動した、しないと回答したのか判断基準は示されていない。もともと感染症を想定していて、そこに書かれている感染防止策、あるいは事業継続戦略が行われたら「発動」なのか? 全く別の事象を考えていて、BCPの取り組みがたまたま機能したら、それは「発動しなかった」に該当するのか? 今回は、BCPがもたらす成果について考えてみたい。

令和3年度における「企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」

第1回:BCPの見直し頻度と過去の役立ちの関係

第2回:被災時に役立つもの

第3回:重視するリスク

第4回:BCPで対象とする災害

第5回:リスク対応を実施していく上での課題

結論から言えば、BCPを発動しても、しなくても、それ自体は大きな問題ではない。地震でも、BCPを発動した、しない、で判断が分かれるケースはよくある。そもそも「発動」の定義があいまいなケースが多い。被災をして平時のやり方では事業が継続しない場合に、BCP文書で定めた別のやり方に切り替えることを「発動」というのか、安否確認を含めBCP文書に記載されている行動を何か1つでも行えば発動なのか? では、BCP活動の中で防災力を高め、そのことで被災を免れたら、それは発動ではないのか――。

大切なのは、これまでのBCP/BCMの取り組みが役に立ったかどうかだ。本連載では何度か書いてきたが、BCP/BCMは、事業継続力を高めるための活動である。その活動の中で、さまざまな災害への対策が備わってくる。こうした対策は、あらかじめ想定したシナリオとは違う事象が起きても、状況に応じて最適なものを引き出し、使えるようになっていく。

例えば、リスク対策.comが行ってきた取材事例でいえば、地震災害の際に多くの社員が本社に来られなくなることを想定して在宅勤務の体制を整えてきた企業は、新型コロナでその対策が非常に役に立ったと語っている。また、自分の工場が地震災害などで被災して使えなくなった際に、協力会社や同業者に生産を委託する計画を準備していた企業も、今回のようなパンデミックでも、こうした対策が有効なことが分かったとしている。

そのような視点で改めて新型コロナウイルスへの対応を振り返った際、BCPの活動として何か役に立ったことはないか。あるいは、今コロナ対策として取り組んでいることが、今後、別の災害に役立てられないか。