2022/06/17
事例から学ぶ
実践者だからこそできる勘所を押さえた支援
重電機メーカーの明電舎(東京都品川区、三井田健取締役社長)は、自社が培ってきたBCP のノウハウをオープン化する。経済産業省の制度を活用して社内に新会社レジリエンスラボ(沖山雅彦代表取締役CEO)を設立。BCP の体制や仕組みの構築、ツール類の作成、訓練などをトータルで手助けするとともに、非常用電源・燃料などを共同で備蓄する枠組みもつくる。BCP/BCM の実務は企業特性に応じ千差万別、それゆえノウハウの一般化は難しいが、事業会社としてPDCAをまわしてきた実体験を生かし、現場に即した支援サービスを展開していく。
明電舎/レジリエンスラボ
東京都
行動を根付かせる仕掛け
災害発生時の具体的な行動や手順を書き込み、折りたたんで常時携帯するポケットマニュアル。重電機メーカーの明電舎を核とする明電グループの「災害対応カード」もまたシンプルだ。2018年に作成して以降、約1万枚をパート・派遣を含む全社員に配布してきた。
広げてもB5判よりひとまわり小さいコンパクトサイズ。記載できる内容は自ずと絞られる。同社の場合は大規模地震時の行動を「社内就業中」「通勤・外出・出張中」「夜間・休日」の3シーンに分けて明記。そこにエレベーター内や電車・駅構内、また救命やケガの措置など、パニックに陥りがちな場面の対処法を特記した。
突発的事象に直面した際、分厚いマニュアルを引っ張り出す余裕がないのはよくいわれるところ。そのため安否確認の手順、家族への連絡方法といった周知の内容もあえて記載し、当然、緊急連絡先の記入欄も設けている。
「結局、我々は頭が真っ白になってしまう。咄嗟に何をしていいかわからず、暗記しているはずの職場や自宅の電話番号さえ出てこない。だから、命を守る最低限の情報は肌身離さず持っておく」と、レジリエンスラボ代表取締役CEOで明電舎ガバナンス本部兼コーポレートコミュニケーション推進部の沖山雅彦氏。大切なカードが簡単に破れないよう、紙は水に強いストーンペーパーを選んだ。
BCPの実務が生み出すツール類
襲来までに若干の猶予がある豪雨や台風に対しては、取るべき行動を時系列で追った注意喚起のポスターを制作した。「平時」「5日前」「3日前」「24 時間前」と、タイムラインにそってどのような行動が必要になるかを1枚に整理、事業所の食堂や廊下に掲示している。
本社や工場など主要5拠点の災害ハザードマップも作成・配布。洪水、土砂災害、津波、噴火、地震の揺れやすさなどの各種ハザードマップをA4判16ページの冊子にまとめたもので、自治体のホームページをいちいち確認しなくてもこれ1冊で各拠点の災害リスクが分かる。
「『自治体のハザードマップをそれぞれ見てください』という指示では、一つ一つの確認が面倒ですから、結局は誰も見ない。なので、なかば強制的に見せる。いったん冊子にしておけば従業員の防災教育にも使え、経営者も各事業所拠点の災害リスクが俯瞰的に把握できて便利」
ノウハウを他社にオープン化
BCPの実効性を高める実務上の工夫はどの企業も課題だ。同社の取り組みはまさにそれで、ファイルの奥に格納された書類からエキスを抽出し、重要なポイントを誰もが分かりやすいかたちで可視化。普段から携帯したり、目に触れる場所に掲示したりすることで、いざというとき現場が迅速に行動できるようにする。
「BCPマニュアルは、つくっただけでは誰も見ない。しかもたいていは『社外秘』ですから、パート・アルバイトや派遣社員は見ないというより見られない。だからカードやポスター、冊子に落とし込んで浸透させる。しかし実際にそれらをつくろうとしたら、マンパワーも時間もかかる」と沖山氏は話す。
BCPは策定してからが課題といわれるように、実務作業は企業の特性に応じて千差万別。容易に一般化できず、ツール類の作成一つとっても一律にノウハウは得られない。とはいえ一からつくるには相応の負担がかかり、会社からの指示・任命なしに担当者が自主的に取り組むのは困難だ。
そのため明電舎では、こうしたツール類の作成をはじめ、自社が実践してきたBCPの取り組みを他社にオープン化。知見やノウハウを広く共有し、さまざまな企業のコーポレート部門を支援していく考えでいる。専門の事業会社レジリエンスラボを昨年8月に設立した。
「計画書としてのBCP策定支援ではなく、BCPの体制・仕組みやツール、訓練、研修などを個々の会社に合わせて最適にデザインし、PDCAをまわしていく支援。その点でコンサルタントと一線を画します。実際にBCPに取り組んできたからこそ具体的・実務的なアドバイスができ、母体が電機メーカーだから非常用電源や蓄電池の備えも提案できる。強みを生かした支援を行っていきたい」
対象は、全企業・全業種。BCPの底上げを通じて産業界全体のレジリエンス向上に寄与したいとする。
事例から学ぶの他の記事
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月16日配信アーカイブ】
【4月16日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:熊本地震におけるBCP
2024/04/16
-
調達先の分散化で製造停止を回避
2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。オフィス家具を製造するホリグチは真備町内でも高台に立地するため、工場と事務所は無事だった。しかし通信と物流がストップ。事業を続けるため工夫を重ねた。その後、被災経験から保険を見直し、調達先も分散化。おかげで2023年5月には調達先で事故が起き仕入れがストップするも、代替先からの仕入れで解決した。
2024/04/16
-
工場が吹き飛ぶ爆発被害からの再起動
2018年の西日本豪雨で隣接するアルミ工場が爆発し、施設の一部が吹き飛ぶなど壊滅的な被害を受けた川上鉄工所。新たな設備の調達に苦労するも、8カ月後に工場の再稼働を果たす。その後、BCPの策定に取り組んだ。事業継続で最大の障害は金属の加温設備。浸水したら工場はストップする。同社は対策に動き出している。
2024/04/15
-
動きやすい対策本部のディテールを随所に
1971年にから、、50年以上にわたり首都圏の流通を支えてきた東京流通センター。物流の要としての機能だけではなく、オフィスビルやイベントホールも備える。2017年、2023年には免震装置を導入した最新の物流ビルを竣工。同社は防災対策だけではなく、BCMにも力を入れている。
2024/04/12
-
民間企業の強みを発揮し3日でアプリ開発
1月7日、SAPジャパンに能登半島地震の災害支援の依頼が届いた。石川県庁が避難所の状況を把握するため、最前線で活動していた自衛隊やDMAT(災害派遣医療チーム)の持つ避難所データを統合する依頼だった。状況が切迫するなか、同社は3日でアプリケーションを開発した。
2024/04/11
-
-
組織ごとにバラバラなフォーマットを統一
1月3日、サイボウズの災害支援チームリーダーである柴田哲史氏のもとに、内閣府特命担当の自見英子大臣から連絡が入った。能登半島地震で被害を受けた石川県庁へのIT支援要請だった。同社は自衛隊が集めた孤立集落や避難所の情報を集約・整理し、効率的な物資輸送をサポートするシステムを提供。避難者を支援する介護支援者の管理にも力を貸した。
2024/04/10
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月9日配信アーカイブ】
【4月9日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:安全配慮義務
2024/04/09
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方