■ユーレイの正体見たり枯れ尾花?

早くも先輩に自分の怖がりを悟られてしまったのは悔しいことでしたが、それにも増して怖がりを払しょくするためのヒント、つまり合理的な説明が聞けたことは、ハルトにとって大きな収穫です。ヒデさんの目からうろこの説明はさらに続きます。

「僕にも恐い体験はある。雨の南アルプスを縦走中に木の陰からガイコツがこちらを見ているような光景に出くわしてドキッとしたり、深く切れ込んだ断崖絶壁の谷間からたくさんの子供たちの騒ぐような声がかすかに聞こえてきたり…。でも結局、前者の正体は白骨化した太い木の幹のこぶだったし、後者は疲労による幻聴だったとしか考えられないのだよ」

木が人に見えたり、暗闇から声が聞こえる気がしたりするのには科学的な理由が(写真:写真AC)

「ちなみに最近、科学雑誌でこんなの読んだぞ。『脳はだまされる』という見出しの記事なんだが、人間にはいち早く人の顔を識別する能力が進化の過程で身についたらしい。でないと、相手が友好的なのか敵対的なのか、危険かそうでないか分からず、下手すると手遅れになってしまうからね。こうした脳の仕組みが過剰に働いて、人以外のものにまで顔の輪郭や目・口の形を見出してしまうらしい」

「それと、僕らがお互いに安心して生活を送るためには、相手が何を思ってどう行動しようとしているのかを察知する必要があるね。このような脳の働きが、まったく意味のない音や動きにまで人間の行動に似たものを関係付けてしまうんだ。なぞの足音なども、根本的にはこれと一緒というわけさ」