2010/07/25
誌面情報 vol1-vol22
静岡県で新たな挑戦!
マグロやカツオの漁獲で有名な静岡県焼津市で、水産物の水揚げから加工、流通、小売と、漁業に関わる川上から川下までの企業を集めてBCP(事業継続計画)の策定を支援することで、災害にも強い地域ブランドを構築しようという試みが進められている。
この取り組みは静岡銀行が経済産業省の地域力連携拠点事業を受け実施しているもの。静岡銀行がコンサルティング会社である東京海上日動リスクコンサルティング㈱へ委託し、商工会議所を通じて会員企業のBCP策定を支援している。国の補助金を活用することに加え、まとまった企業を同時に支援することで費用負担を少なく抑えられるメリットがある。参加企業は資料代として5万円だけ支払えばBCPを策定できる。
静岡銀行では、一昨年にも、同じ方法で沼津市の工業団地で組合に入る企業を対象にBCPの策定を支援した実績がある。同行法人営業支援グループの内藤正英氏は「銀行としては融資先である県内企業に元気になってもらわなくては困る。ところが、5年程前に県内企業の経営者を対象にアンケートを行ったところ、回答企業の約3分の2が後継者のいないことで悩んでいることが分かった。そこで、融資以外にもできるお手伝いとして、事業承継をはじめ、相続や、その他さまざまなリスクについて学んでもらう勉強会を開催するとともに、地震などの災害に対してはBCPを構築してもらうよう働きかけてきた」と説明する。
一方、焼津商工会議所では、冷凍倉庫業を営む会員企業の1社が、先進的にBCPを構築し、商工会議所に対して、地域全体での取り組みの必要性を呼びかけていた。この動きを聞いた静岡銀行が焼津商工会議所に提案し、沼津工業団地と同じ支援をすることが決まった。
焼津市は、カツオの水揚げ日本一を誇る漁業の町。しかし、近年、少子高齢化や過疎化、後継者不足などにより地域経済は疲弊。他方、東海地震の発生確率は年々高まっており、商工会議所の岡本康夫事務局長は「東海地震により地域が大規模な被害を受ければ、水産物の出荷ができないばかりか、地域ブランドが立て直せなくなるという危機感があった」と振り返る。
商工会議所では昨年、水産ブランドの普及や町中再生と併せて、危機管理を重点施策の1つに掲げ、8月からBCP策定集中講座を開催することを決めた。参加企業を募ったところ、集まったのは12社。水揚げや加工を担う漁業協同組合に加え、倉庫業や、卸、鰹節などの製造業者、さらには水産業と直接関係がない自動車販売や船のエンジン製造会社、地元新聞店も顔を連ねた。自発的に申し込んだ企業だけではない。水揚げから加工、流通まで漁業全般を幅広くカバーするコンセプトを実現させるため、参加してほしい企業には直接出向いて理解を呼びかけたという。
BCP策定講義は、2週間に1回で、木曜日か金曜日の午後1時から4時までの約3時間。計6回、3カ月間でBCPを策定する。毎回テーマを変え、最初の1時間半は、一般的な基礎知識や考え方を講師が説明。残った時間はグループディスカッションや演習の時間にあて、さらに講義終了時には宿題を与え、次の講義までに考えてきてもらうという流れ。講師を担当した東京海上日動リスクコンサルティングの小林俊介氏は「一般的なBCPの概念を教えるような講座と違い、とにかく中小企業に自社のBCPを作りこんでもらうことを優先した」と説明する。
具体的な内容は、1回目が事業継続の基本方針の策定、2回目が重要事業の選定、3回目が業務プロセスの分析・被害想定、4回目が戦略・対策検討、5回目がBCM基本文書の作成、6回目は作り上げたBCP文書の確認と個別相談(上図表)。比較的に早い段階から、ビジネスインパクト分析による優先業務の選定など、BCPの中核的な作業を盛り込んでいるのが特徴だ。
参加企業のほとんどは3カ月の講座でBCPを完成させることに成功した。ただ、一度きりの取り組みで終わらせないため、同商工会議所ではフォローアップ事業として、1社1社をコンサルティング会社と訪問し悩みや課題を聞くとともに、継続的な向上のアドバイスを行っている。岡本事務局長は「とりあえず第一歩は踏み出したが、この後が大事。次のステップとして、自分たちの策定した計画を、訓練するなどして企業活動の中に定着させることができるよう、商工会議所としてもできることを考えていきたい」と話す。
既にいくつかの企業に対しては、BCPを維持させる新たな試みにも挑戦してもらっている。その1つが、静岡県信用保証協会が2007年4月に創設した災害時における資金支援制度「災害時発動型保証予約システム」の活用。同制度は、BCPの内容が信用保証協会に認められれば、大規模地震などによる被災時に最大2億8000万円の資金支援が受けられるというもの。被災時に、事業再建に必要な運転資金を即座に借りることができるというメリットに加え、有効期限が1年間で、毎年更新の必要があるためBCPを継続的に向上させていく仕組みとして有効だというわけだ。静岡銀行の内藤氏は、「BCPを構築するのに大手企業なら個別にコンサルティング会社を使うこともできるが、中小零細企業はお金がかかりすぎて無理。今回の事業をモデルに、グループコンサルティングのような手法が確立でき、仮に1社が10万円∼20万円を負担すればコンサルティングを受けられるようにすれば、最終的には補助金に頼らなくても広く中小企業にBCPを普及できるようになるかもしれない」と話している。


おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方