3連動地震のBCP発動はそれぞれの被災後か?
第18回:南海トラフ地震関連情報を生かす

林田 朋之
北海道大学大学院修了後、富士通を経て、米シスコシステムズ入社。独立コンサルタントとして企業の IT、情報セキュリティー、危機管理、自然災害、新型インフルエンザ等の BCPコンサルティング業務に携わる。現在はプリンシプル BCP 研究所所長として企業のコンサルティング業務や講演活動を展開。著書に「マルチメディアATMの展望」(日経BP社)など。
2022/08/12
企業を変えるBCP
林田 朋之
北海道大学大学院修了後、富士通を経て、米シスコシステムズ入社。独立コンサルタントとして企業の IT、情報セキュリティー、危機管理、自然災害、新型インフルエンザ等の BCPコンサルティング業務に携わる。現在はプリンシプル BCP 研究所所長として企業のコンサルティング業務や講演活動を展開。著書に「マルチメディアATMの展望」(日経BP社)など。
通常、企業のBCP活動において、その事業所エリアで首都直下地震など震度6弱以上の強い地震が発生した場合、BCP災害対策本部が立ち上がります。
さらに対策本部内では、安否確認班(人事部)、社内被災情報収集班(総務部ほか)、IT被災情報収集班(情報システム部ほか)、顧客・取引先情報収集班(営業、事業部)などの作業グループに分かれ、自社企業リソース(ヒト、モノ、ジョウホウ)と顧客・取引先等の被災についてそれぞれ情報を収集します。
そして刻一刻と変化する状況の中、あらかじめ実施していた事業影響度分析結果(事業の優先度付け)と収集した被災情報を総合的に判断したうえで、利用可能なリソースを優先度の高い事業に割り当て、事業継続を果たそうと考えます。
このような考え方は、基本的に、予知ができない「単発」の巨大地震災害発生を甘んじて受け、被災に至った後、企業が事業継続のためにどのように立ち振る舞うかを定めたものです。同程度の余震が数日続いたとしても、数日後から復旧フェーズに入ることを見越して、BCP対策本部が実施する作業(情報収集作業)の基本スタンスに変わりはありません。
レジリエンスという言葉は、弾力性のある回復力という意味で使われますが、こうした背景を想定した用語だということも分かります。
私たちは、海溝型の巨大地震として東日本大震災を経験しました。東北太平洋岸各地に津波をともなう大きな被害をもたらしたわけですが、次に懸念されている海溝型巨大地震、南海トラフ地震の場合、BCPの基本スタンスはどうでしょうか。
東日本大震災と決定的に異なる南海トラフ地震の特徴は、マグニチュード7~9クラスの巨大地震が少なくとも3つ連動して発生する、いままで経験したことのない、東日本大震災の10倍以上の被害をもたらす広域の連続巨大災害だということです。
先に述べたBCP対策本部活動の前提は「”単発”地震からの事業継続」という暗黙の了解がありました。しかし南海トラフ地震では、時間軸を特定できないながらも、最悪のケースを想定すると、復旧フェーズに至らない1週間程度の短期間に3つの大きな地震が連続して発生する可能性があります。だとしたらなぜ、3連動南海トラフ地震に対し、単発地震と同じフレームワークでしかBCPを考えないのか。
南海トラフ地震がどのくらいの間隔で、あるいはどのエリアの順番で3連動するかが分からない、それは翌日かもしれないし、1年後かもしれない。最初が東海地震(静岡沖)なのか、東南海地震(熊野灘沖)なのか。そのため、ある意味最良のケースとして、各3連動地震をそれぞれ「単発地震」として取り扱わざるを得ないというわけです。
企業を変えるBCPの他の記事
おすすめ記事
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方