2022/11/15
「共同通信 海外リスク情報」活用術
グローバルな危機管理力の向上に生かす
海外リスク情報に日々接し、危機に対して敏感になる
小島氏が所属した日立製作所にリスク対策部が設置されたのは、湾岸戦争がきっかけだ。1990年8月2日、イラクが隣国のクウェート侵攻を開始。首都を制圧し、サダム・フセイン大統領はイラクのクウェート併合を宣言した。クウェートに滞在していた外国人は人質として拘束され、イラクに移ってから政府機関や軍事施設、石油施設などに「人間の盾」として監禁された。約200名の日本人も含まれ、日立グループの社員も20人以上が巻き込まれた。拘束期間は最長で約4カ月。12月に全ての人質が解放されると翌年1月、米国を中心とした多国籍軍がイラクへの攻撃を開始した。
当時、社長室で早くから危機管理にあたっていた小島氏は、湾岸戦争後に新設されたリスク対策部へ配属。以降、2014年に退社するまで同部で危機管理の取り組みを継続した。2001年の米国同時多発テロや2003年のSARS流行とイラク戦争、2004年のスマトラ沖地震、2008年のムンバイ同時多発テロ、2009年の新型インフルエンザの流行、2010年のタイ騒乱、2012年の中国抗日運動ほか、社会の耳目を集める数多くの事案に対応してきた。どの事案でも日立グループで活用していたのが、「共同通信 海外リスク情報」だった。日頃から海外の情報に接する機会を増やすために、イントラネットで外務省の海外安全情報とともに「海外リスク情報」を掲示した。小島氏の危機察知能力も、こういった環境で磨かれたと言えよう。
一方で小島氏は「情報を受動的に眺めるだけではもったいない。情勢の流れや事案との関連性を考慮するためには、自社事情を踏まえて情報をより使い易く工夫すると良い」とも語る。日立グループでは、海外リスク情報を①治安・事件・事故 ②政治・経済・労働 ③自然災害、環境、疾病、④誘拐・人質 ⑤航空機 ⑥自動車、列車 の6つに分類すると同時に、全件を時系列に「最新情報」とする一方、「国別・地域別」に整理していた。
トップを納得させる資料として使える海外リスク情報
あらゆる分野の企業危機管理において、人身に係るトラブルもなくビジネスが計画通りに無事完遂できたとしても、対策が奏功したのか、無関係だったのか分からないという難しさが伴うのが現実。加えて、対策には予算や手間暇がかかるものであり、できる限りトップの方針として実施することが求められる。つまり、リスク担当者は当該ビジネスについて、取り巻く環境とリスクをトップに正しく伝えて、リスク対策について納得させる必要があり、そのためにも十分なエビデンス(証拠、根拠)となる情報が必要となる。
外務省や主要国の政府情報、調査会社などの情報も、「海外リスク情報」のファクトがあってこそ使える、と言っても過言ではない。実際に小島氏は、事業開始に向けた事前調査のため、イラクやシリア、リビアなどにも足を運んでいる。「仕事場となる国がハイリスクでも、企業が従業員の派遣を検討することがある。インフラなどその国の死活問題につながる事業であれば、簡単に判断はできない。もちろん、派遣が不可能なケースもある。従業員の安全を確保しつつ、ときには諦めずにビジネスに挑む体制を整える。『海外リスク情報』は、さまざまな難題に取り組む危機管理担当者を支える役割も担っている。是非、うまく活用してほしい」
- keyword
- 海外安全情報
「共同通信 海外リスク情報」活用術の他の記事
おすすめ記事
-
競争と協業が同居するサプライチェーンリスクの適切な分配が全体の成長につながる
予期せぬ事態に備えた、サプライチェーン全体のリスクマネジメントが不可欠となっている。深刻な被害を与えるのは、地震や水害のような自然災害に限ったことではない。パンデミックやサイバー攻撃、そして国際政治の緊張もまた、物流の停滞や原材料不足を引き起こし、サプライチェーンに大きく影響する。名古屋市立大学教授の下野由貴氏によれば、協業によるサプライチェーン全体でのリスク分散が、各企業の成長につながるという。サプライチェーンにおけるリスクマネジメントはどうあるべきかを下野氏に聞いた。
2025/12/04
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/12/02
-
-
-
-
-
-
目指すゴールは防災デフォルトの社会
人口減少や少子高齢化で自治体の防災力が減衰、これを補うノウハウや技術に注目が集まっています。が、ソリューションこそ豊富になるも、実装は遅々として進みません。この課題に向き合うべく、NTT 東日本は今年4月、新たに「防災研究所」を設置しました。目指すゴールは防災を標準化した社会です。
2025/11/21
-
サプライチェーン強化による代替戦略への挑戦
包装機材や関連システム機器、プラントなどの製造・販売を手掛けるPACRAFT 株式会社(本社:東京、主要工場:山口県岩国市)は、代替生産などの手法により、災害などの有事の際にも主要事業を継続できる体制を構築している。同社が開発・製造するほとんどの製品はオーダーメイド。同一製品を大量生産する工場とは違い、職人が部品を一から組み立てるという同社事業の特徴を生かし、工場が被災した際には、協力会社に生産を一部移すほか、必要な従業員を代替生産拠点に移して、製造を続けられる体制を構築している。
2025/11/20
-
企業存続のための経済安全保障
世界情勢の変動や地政学リスクの上昇を受け、企業の経済安全保障への関心が急速に高まっている。グローバルな環境での競争優位性を確保するため、重要技術やサプライチェーンの管理が企業存続の鍵となる。各社でリスクマネジメント強化や体制整備が進むが、取り組みは緒に就いたばかり。日本企業はどのように経済安全保障にアプローチすればいいのか。日本企業で初めて、三菱電機に設置された専門部署である経済安全保障統括室の室長を経験し、現在は、電通総研経済安全保障研究センターで副センター長を務める伊藤隆氏に聞いた。
2025/11/17






※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方