写真:経済産業省「再エネ発電設備の導入拡大に伴う電気保安の現状と課題」資料より

温室効果ガスの削減やエネルギーの安定供給に向けて、政府や東京都が太陽光発電設備の設置義務化の方針案を発表するなど、太陽光発電に再び注目が集まっている。企業でも工場の敷地や屋根を利用して太陽光発電パネルを設置する事例が増えているようだ。一方で、気候変動リスクは年々増加し、大型台風や竜巻、突風などは増加傾向にあるとの見方もあり、実際に強い風でパネルが被災する事例は毎年のように起きている。太陽光発電設備の設置において生じるリスクや対処法について、風工学に詳しい京都大学大学院工学研究科准教授の松宮央登氏に聞いた。

                    松宮央登氏

風荷重は風速の二乗で大きくなる

 

Q:近年、太陽光発電の設置が増えているようだが、どのような被害が増えているのか。

A:経産省の資料でも公開されているように、土砂や浸水、積雪など、さまざまな被害がある。特に懸念しているのは風による被害だ。台風などの強風が吹くことで、太陽光発電パネルが風荷重に耐えきれずに破損して物理的に故障したり、破損したパネルが風で飛ばされて周囲に被害を与えることもある。

Q:さまざまな事業者が太陽光発電パネルを製造しているが、太陽光発電設備には品質を担保するための規格などがあるか。

A:太陽光発電設備の設置には技術基準が定められており、電気事業法(電気設備技術基準)を守るべき部分と、構造物として建築基準法を守るべき部分がある。また、JIS C 8992、JIS C 8955:2017などのJIS規格も定められており、適用される規格の基準に沿って設備を作る必要がある。

Q:風による被害が大きい理由は何か。

A:風が吹いても太陽光発電設備が破損しないようにするためには、一定の風荷重に耐えうる設計が必要だ。流体に関するエネルギー保存則であるベルヌーイの定理などでも表されるように、単位面積あたりに作用する風荷重(風圧)は流速の2乗に比例する形となる。例えば、風速20m/sの場合に風荷重が250N/m2(Pa)とすると、風速が倍の40m/sになると風荷重は1000N/m2(Pa)となる。風荷重が風速の二乗で大きくなることで、強風時には感覚的には信じられないほどの荷重が作用することになる。これが、風による太陽光発電設備の被害が大きくなりやすい理由だ。この点を意識して被害に備えることが重要となる。

Q:昨今、日本各地で大型台風による大きな被害が出ており、太陽光発電設備の設置が増えれば、台風時に設備が破損したりパネルが割れて周囲に飛んだりするなどの被害が増えることが予想される。太陽光発電設備の規格は、台風なども想定して設定されているのか。

A:一般的な建築物の設計荷重においては2段階のラインを設定するという考え方がよく用いられており、機能が損傷しないラインと、多少は機能が損傷したとしても、人命を守るために絶対に守るべきラインを考えることがある。

太陽光発電設備の場合は再現期間50年という風速値を用いるのが一般的だが、これは確率的には50年に一度吹くくらいの強風を想定するという意味合いで、数値としては30〜40m/sくらいの台風レベルを想定して、機能が損傷しないようにしている。

一方、建築物の設計においては、多少は機能が損傷したとしても人命を守るために倒壊などを防ぐラインとしては、再現期間500年(500年に一度吹く可能性があるほどの巨大台風など)などの高い風速値を用いる。2018年に大阪に大きな被害を出した台風21号や2020年の「令和元年房総半島台風」などの観測史上最強クラスの台風が襲来しているが、再現期間500年という値を適用すれば、こうした台風にも対応できることになる。

太陽光発電設備の設計では、前者の機能が損傷しないラインの評価のみが行われるが、基準に沿った設計が適切になされていれば、多くの場合には後者のラインを満たしており、他者への被害を及ぼさない程度の強度は有しているとは考えられている。

基準値を上げれば連動してコストも上がってしまうため、どんな台風が来ても損傷しないような基準を作るというのは現実的ではない。実際に被害が出ている事例では、基準を満たしていない場合も多いと考えられる。しかし、太陽光発電設備が破損して敷地から飛び、他者や人命に危険が及ぶような被害が出るのは避けるように考えなければならない。

写真:経済産業省「再エネ発電設備の導入拡大に伴う電気保安の現状と課題」資料より