危機管理活動が「バカの壁」を突き崩す
第38回:経済安全保障に向き合う時代変化(4)

多田 芳昭
一部上場企業でセキュリティー事業に従事、システム開発子会社代表、データ運用工場長職、セキュリティー管理本部長職、関連製造系調達部門長職を歴任し、2020年にLogINラボを設立しコンサル事業活動中。領域はDX、セキュリティー管理、個人情報管理、危機管理、バックオフィス運用管理、資材・設備調達改革、人材育成など広範囲。バイアスを排除した情報分析、戦略策定支援、人材開発支援が強み。
2023/04/27
再考・日本の危機管理-いま何が課題か
多田 芳昭
一部上場企業でセキュリティー事業に従事、システム開発子会社代表、データ運用工場長職、セキュリティー管理本部長職、関連製造系調達部門長職を歴任し、2020年にLogINラボを設立しコンサル事業活動中。領域はDX、セキュリティー管理、個人情報管理、危機管理、バックオフィス運用管理、資材・設備調達改革、人材育成など広範囲。バイアスを排除した情報分析、戦略策定支援、人材開発支援が強み。
前稿までに述べたように、企業が経済安全保障の課題に正面から向き合うことは、法的規制云々の領域を超えて、自社ビジネスを安全安心の大原則の元に公平公正な立場で行うために必要不可欠になってきている。その阻害要因の大部分は、情報の歪みによって起こるとも述べてきた。
ただ、その問題に具体的に対処するには、問題が発生する構造をもう少し見極める必要がある。筆者の私見だが、養老孟司先生のベストセラー著書『バカの壁』がわかりやすく説明していると考えている。『バカの壁』で指摘される現象が問題構造の根幹であり、最近の言葉でいうならエコーチェンバーともいえる現象が縦割り組織のなかで発生していると思えるのだ。
ここで『バカの壁』で述べられている現象を、私なりの解釈も加えて少しだけおさらいしておこう。
根幹の部分を簡潔に示すと、個々人の行動原理、アウトプットの大小は、その個人にインプットされる情報量とその情報に対する個人の関心度合いの積で表されるというものだ。
【アウトプット量】=【インプット情報量】×【その情報に対する関心度】
つまり極論をいえば、関心がゼロであれば、どれだけの情報量があろうとも、ゼロをかければゼロにしかならずアウトプットはゼロになる。
この公式は、実社会でかなりのレベルで適合性が確認できると感じている。関心を持つ事項には少しの情報でも過敏に反応し、関心がなければ気付きもしない。そして面白いのは、この関心が負の値を示す場合の想定である。
巷で起きている、切り取りの情報に対する屁理屈をこねまわした非論理的な誹謗中傷、ダブルスタンダードの数々は、関心度がマイナスで絶対値が大きい場合に起き得る現象と解釈できる。従って社会を動かすエネルギーの源泉は、この「関心度」のベクトル量(方向性と大きさ)に大きく依存するのである。
『バカの壁』ではこの「関心度」を「壁」と称しているが、企業組織において縦割りが「壁」を補強し、部分最適を生み出していく。古くから「組織の壁を取り払う」ことが重要な経営課題とされてきているが、人間が集まって活動する限り、この問題がなくなることは永遠にないといっても過言ではない。
ましてや日本型組織は、実力主義に変遷してきているとはいいつつ、自組織を守り、自組織の説明の弁が立つアピール力が出世の鍵となり、社内競争を勝ち抜く肝になる傾向が強い。それがたとえ部分最適であろうとも、勝ち上がれば成功事例になる。従って、欧米型企業と比較して「壁」の弊害が現れやすいのだ。
再考・日本の危機管理-いま何が課題かの他の記事
おすすめ記事
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/09/16
ラストワンマイル問題をドローンで解決へBCPの開拓領域に挑む
2025年4月、全国の医療・福祉施設を中心に給食サービスを展開する富士産業株式会社(東京都港区)が、被災地における「ラストワンマイル問題」の解消に向けドローン活用の取り組みを始めた。「食事」は生命活動のインフラであり、非常時においてはより一層重要性が高まる。
2025/09/15
機能する災害対応の仕組みと態勢を人中心に探究
防災・BCP教育やコンサルティングを行うベンチャー企業のYTCらぼ。NTTグループで企業の災害対応リーダーの育成に携わってきた藤田幸憲氏が独立、起業しました。人と組織をゆるやかにつなげ、互いの情報や知見を共有しながら、いざというとき機能する災害対応態勢を探究する同社の理念、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/09/14
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/09/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方