精密減速機を生産する主力の津工場

機械コンポーネント大手のナブテスコはサプライチェーン全体の強靭化に取り組んでいる。製造業にとって、部品や原材料といった外部経営資源の調達活動は、生産活動とともに基幹業務を支える生命線とされる。同社では、「モノづくり(生産)の大前提はモノあつめ(調達)」と考え、この外部経営資源の調達BCPを実践。自社のBCP に取り組むとともに、個々のサプライヤーが自社の事業継続力を強化することを目標に、サプライヤーのBCP 支援を加速させている。

ナブテスコ
東京都

※本記事は月刊BCPリーダーズvol.31(2022年8月号)に掲載したものです。※記事中写真提供:ナブテスコ

事例のPoint

形骸化したBCPを活性化

・実効性のあるBCPとは「多様な危機に迅速に対応する組織の行動力」として、BCP のPであるPlan(計画)をPower(力)と独自に読み換え、事業継続力を高める活動と定義した。

 

全拠点が一斉にレジリエンス認証を取得

・現場スタッフが活動のモチベーションを持ち続けられるよう国の認証制度を全拠点で活用。

 

 

3ステップでサプライヤーBCPを支援

・現場支援の進め方を3つのステップにより設定し、 2018年から活動を開始。

 

被害の発生を前提とした危機対応重視のBCP

2003 年に株式会社ナブコと帝人製機株式会社が経営統合して誕生したナブテスコ株式会社は、産業用ロボット向け精密減速機や建設機械向け油圧機器をはじめ、鉄道、航空、船舶、商用車など輸送用機器向けに、さまざまな制御系の主要部品(キーコンポーネント)を提供する。その他にも、自動ドアや包装機を含めて事業活動は多岐にわたり、異なる事業の数だけ独自のBCPが存在する。

BCP活動がスタートしたのは2010 年。BCP総括事務局が、リスク管理を主管するコンプライアンス本部に置かれ、同事務局がナブテスコ本体の6つの社内カンパニー、さらにはグループ企業3社の BCP支援をしたが、BCP活動は停滞した。

現BCP総括事務局を務める木村康弘氏(現ものづくり革新推進室・調達統括部参事)は、BCPが形骸化した状況に対して「何かがおかしい」と疑念を抱き、BCPのやり方を大きく変えた。具体的には、それまで重視していたBCPのガイドライン、専門書、一般化された作法から一旦は距離を置き、事業現場の実態把握を先行させた。

現場のメンバーとBCPの協働作業を試みるために木村氏はBCPの支援実務に携わることになった。最初の支援先は、グループ企業の1つで、包装機を手がける東洋自動機(現在のPACRAFT)の岩国工場だった。岩国工場が抱える多様なリスクを洗い出し、防災や減災など事前対策だけでは解決できない重大な被害事象を、被害が発生した後の危機対応のBCPでカバーするという方針で、現場とともに作業と整理を進めた。その結果、深刻な被害を受けても代替生産による優先事業の早期再開を目標にしたシンプルなBCPを仕上げた。これが、全拠点のBCPの立て直しにつながる先行モデルとなった。

事業継続に関わるリスクが最上位に

2015 年に、国内の主要17 拠点を対象に懸念するリスクについての調査を実施したところ、大規模な自然災害による自社工場の操業停止が1 位となり、サプライヤーの被災に伴う調達不能がそれに続く結果となった。「BCP活動を本格化させる原動力になった」と木村氏は振り返る。

翌2016 年、BCP総括事務局は、リスク管理を主管するコンプライアンス本部から、生産現場を支援するものづくり革新推進室(本部相当)に業務移管され、これに伴い木村氏も異動した。木村氏はバイヤー出身であり、異動先となる調達統括部は、いわば古巣の職場でもある。気候変動対応や安全管理などを主管する環境安全部や、設備の導入・管理などを主管する生産技術部ではなく、調達統括部に所属となったことは、サプライヤーの BCP支援を重点課題にして取り組む「生産現場に特化したBCP」を推進する上でも有効に働いた。

BCP活性化へ全拠点が再始動

木村氏が目指したのは、実効性のあるBCPだ。

「実効性のあるBCPとは、事前に策定した計画書ではなく、多様な危機に迅速に対応する組織の行動力」(木村氏)

BCPのPであるPlan(計画)を、 Power(力)と独自に読み換え、事業継続力を高める活動と定義した。「計画ありきの考えを廃し、訓練を起点にした改善活動という実践(Practice)にフォーカス、これを組織に定着させる持続的進展をBCPのゴールにした」と木村氏は語る。

“想定外対応訓練” と称した BCP訓練は、大きな災害への対応能力を事前に評価する予行演習であり、危機本番の先取りといえる。「組織が抱える固有のリスクを洗い出し、弱点を克服して組織を強くするための作業である」(同)。

BCPを生産現場で推進する当事者が明確でなかったため、各拠点(工場)に BCP事務局を設置した。事務局の基本構成は、①安全・防災チーム②生産チーム③調達チームとし、この3つの機能がうまく連携する形で BCP推進メンバーを配置した。その上で、現場スタッフがモチベーションを持てるようにするためには、「活動の成果を達成感につなげる何かが必要」だと木村氏は考えた。ちょうどその頃、BCPの実効性を評価する国の認定制度がスタートした。国土強靭化基本法に基づいて創設され、2016 年にスタートした「レジリエンス認証」制度である。この制度を社内に導入することでBCPの活性化につなげることに成功し、全拠点(ものづくりを行う9工場)のBCP底上げを可能にした。