2023/07/17
事例から学ぶ
国内約480拠点で豪雨災害リスクを確認

リコーグループでは、近年の気象災害の多発を受け、国内全拠点での水害対策を強化している。ハザードマップによる浸水リスクの高い地域に加え、過去に計画雨量を超える降雨を記録した地域を中心に、止水壁や止水板の設置、受電設備の嵩上げなどを順次実施。同時に、拠点ごとのタイムラインを整備し、被害が発生する前に、止水板などを確実に設置できる体制を整えている。合わせて、これらの情報をDX化することで、管理負担を減らし、透明性も確保し、従業員の誰もが必要な情報を必要なときに見られるようにしている。


独自基準に基づき拠点状況に応じ対策
リコーグループでは、2020年度より、約480カ所ある国内の全拠点で、水害対策を強化している。対策のための調査を開始したのは2019年2月からだった。
リコーのプロフェッショナルサービス部 人事総務センター 総務サポート室 防災管理グループでリーダーを務める阿部一博氏は「リコーでは2019年の台風19号でグループ会社のリコーインダストリーの東北事業所が冠水などの被害に遭いました。このようにリスクが顕在化し、会社としてのリスク認識の高まりにより、2020年度の重点経営リスクに国内拠点の水害対策が追加されたため、これまで以上に対策を強化してきました。リコー独自の水害リスク判定基準を設けたこの取り組みを、国内の全拠点で進めている最中です」と話す。
リコーが水害対策を強化する拠点を選ぶため、独自に設けたのが水害リスク判定基準だ。基準のポイントは2つ。1つ目は拠点が計画規模の洪水浸水想定区域図で示される浸水想定エリアに存在するか。2つ目は、拠点に最も近い気象庁の観測所で記録された最大降雨量が、河川の計画規模で想定している降雨量を越えたことがあるか、だ。いずれかの基準を満たした拠点で、水害対策を強化する。阿部氏は「計画規模の洪水浸水想定区域図の利用は、国が想定しているリスクからアプローチした基準です。一方、計画規模を越える過去最大の降雨量は、実績からアプローチした基準になります」と説明する。
計画規模とは、各河川で氾濫を防ぐ治水整備の際に、対応目標とされている降雨量のこと。1級河川では、おおむね100年から200年に1度発生する洪水を引き起こす降雨量が設定されている。
洪水浸水想定には計画規模だけではなく、想定最大規模も存在する。これは、各河川で1000年に1 回程度の大洪水を発生させる、最大限の想定降雨量だ。阿部氏は「基準の設定に際し、想定最大規模か計画規模のどちらをもとに進めるかを悩みました。国土交通省の河川事務所に相談すると、国や県の治水対策は計画規模をもとに実施されていると説明を受けました。1000年に1度の対策はいち企業として難しいのではとアドバイスされました。自治体との連携も提案されました」と語る。自治体との連携としては、浸水後のポンプによる排水なども検討したが不首尾に終わり、水害リスク判定基準に合致したリコーインダストリーの東北事業所やリコーの沼津事業所と池田事業所では、電気設備の擁壁化や防水板設置、土嚢を備えるなどハード対策を実施した。水害行動計画書の策定や机上訓練のようなソフト対策も合わせて実行した。
事例から学ぶの他の記事
おすすめ記事
-
-
ゲリラ雷雨の捕捉率9割 民間気象会社の実力
突発的・局地的な大雨、いわゆる「ゲリラ雷雨」は今シーズン、全国で約7万8000 回発生、8月中旬がピーク。民間気象会社のウェザーニューズが7月に発表した中期予想です。同社予報センターは今年も、専任チームを編成してゲリラ雷雨をリアルタイムに観測中。予測精度はいまどこまで来ているのかを聞きました。
2025/08/24
-
スギヨ、顧客の信頼を重視し代替生産せず
2024年1月に発生した能登半島地震により、大きな被害を受けた水産練製品メーカーの株式会社スギヨ(本社:石川県七尾市)。その再建を支えたのは、同社の商品を心から愛する消費者の存在だった。全国に複数の工場があり、多くの商品について代替生産に踏み切る一方、主力商品の1つ「ビタミンちくわ」に関しては「能登で生産している」という顧客の期待を重視し、あえて現地工場の再開を待つという異例の判断を下した。結果として、消費者からの強い支持を受け、ビタミンちくわは過去最高近い売り上げを記録している。一方、BCPでは大規模な地震などが想定されていないなどの課題も明らかになった。同社では今、BCPの立て直しを進めている。
2025/08/24
-
-
-
-
ゲリラ豪雨を30分前に捕捉 万博会場で実証実験
「ゲリラ豪雨」は不確実性の高い気象現象の代表格。これを正確に捕捉しようという試みが現在、大阪・関西万博の会場で行われています。情報通信研究機構(NICT)、理化学研究所、大阪大学、防災科学技術研究所、Preferred Networks、エムティーアイの6者連携による実証実験。予測システムの仕組みと開発の経緯、実証実験の概要を聞きました。
2025/08/20
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/08/19
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方