秘する花を知る事。秘すれば花なり、秘せずば花なるべからず、となり。

この件は、室町時代に世阿弥が猿楽の秘伝をまとめた「風姿花傳」の花傳第七の別紙口傳に出てきます。もっとも人口に膾炙した一文ではないでしょうか。秘密にするからこそ、人を惹きつける芸(『』)ができるのだと説きます。そのようなことは大したこと無いこと(『させる事もなし』)だ、と軽んじる人は、隠すことの効果を分かっていないと続けます。

サイバーセキュリティもまた、芸事のような一面があろうかと思います。書き物には残さず、口伝えに工夫を後進に伝えることがあるのです。特に地政学的な文脈の話は、皆、大っぴらには語ることはありません。しかし、それは決して「語り得ぬもの」ではありません。きちんと言葉にして共有し、伝えていかなければいけない重要な知恵です。

世のあらゆるビジネスは、地政学的な影響を受けています。居ながらにしてリスクの真っ只中です。ただ、サイバーの観点からみると、少し色合いが違って見えるようです。コンピュータが相互接続されたインターネットを利用するリスク(サイバーリスク)は、コンピュータを悪用する技術的なリスクばかりではありません。その地政学的な文脈について、国際的サイバーセキュリティコミュニティであるISFのトップが世界経済フォーラムに先日寄稿した意見書に見ることにしましょう。

(ここから引用)


相互接続世界で地政学的リスクに加わるサイバーリスクの克服法

Published: July 17, 2023
SOURCE: World Economic Forum
Steve Durbin, Chief Executive, Information Security Forum

(Getty Images)

・世界が相互接続性および相互依存性を高めたことで、政治やテクノロジー、そして国際関係の諸問題が輻輳してサイバーリスクをもたらします。

・生成AIにより、国家が支援する脅威アクターや、そこまでは高度ではない脅威アクター達によるミスインフォメーション作戦が可能となり、各国公共機関や政府に対する信頼感を損ねさせたり、政治や社会への不安をあおったり、同盟国間に亀裂を生じさせたりする事態もありえます。

・企業各社は、地政学や技術進化の状況を踏まえてサイバーセキュリティを評価する必要があります。

 

相互接続と相互依存が進む世界では、エネルギー、食糧、鉱物、原材料といった資源の安定的な供給とコストは、もはやロジスティクスだけでの問題ではなく、各国の行動、相互関係、イデオロギー、そしてその間の相乗効果によっても左右されます。

こうした政治、テクノロジー、国際関係の諸問題が輻輳してきたことで、さまざまな企業に深刻な影響を及ぼす、おびただしい数のサイバーリスクと不確実性がもたらされました。ここでは、主なサイバーリスクについて説明したいと思います。