2013/06/03
防災・危機管理ニュース
日本政策金融公庫総合研究所が発表
日本政策金融公庫総合研究所は5月8日、レポート「震災を契機とした中小企業のリスク対策への取り組み[対策編]/[事例編]」を発行した。本調査は2012年度に、日本政策金融公庫総合研究所と、日本政策金融公庫から委託を受けた損保ジャパン日本興亜リスクマネジメント株式会社が共同で実施したもの。
東日本大震災では多くの素材・部品メーカーが被災し、自動車産業をはじめ製造業が大きな打撃を受けた。レポートでは日本のモノづくりの代名詞である自動車産業を対象に、完成車メーカーや大手部品メーカーといった大企業と、自動車関連の中小企業に対してヒアリング調査を行い、災害リスクへの対策状況を分析している。
レポートの[対策編]は、主に「震災リスクに対する大企業の取り組み状況」、「震災リスクに対する中小企業の取り組み状況」、「中小企業におけるリスク対策のポイント」の3テーマで構成。[事例編]ではヒアリングを行った企業の具体的な取り組みを詳細に取り上げている。
情報開示に課題
[対策編]の「震災リスクに対する大企業の取り組み状況」では、多くの大企業がサプライチェーンの状況把握と問題解決に取り組んでいる一方、サプライヤーの製造ノウハウや企業秘密の開示が困難なことが、サプライチェーン全体のリスク・マネジメントを行う上でネックになっていることが明らかになった。こうした問題に対し、情報を開示できない場合は、代わりに事業復旧までのリードタイムをサプライヤーが取引先に確約することで、製品供給に責任を負う代替案が用いられる事例が見られた。他に対策としては、調達ルートの複数化、海外生産の拡大、各拠点の生産設備の共通化といった取り組みが行われており、大企業は、生産の効率化とリスク対策を両立する可能性を摸索している段階であるとしている。
中小企業の現状
「震災リスクに対する中小企業の取り組み状況」では、中小企業に対して、東日本大震災以降、リスク対策に関する要求基準が引き上げられているとした。それを受け、中小企業は、社内および取引先の緊急連絡網の整備、社員の安否確認システムの導入、データやシステムのバックアップ・複線化といった対策に取り組んでおり、傾向として、比較的コストのかからない対策を行っているという。
中小企業が単独でヒト・モノ・カネを要する完全なリスク対策を講じるのは容易ではないため、生産拠点や調達先の分散や部品の共通化・汎用化といったサプライチェーン全体に関わる課題にはなかなか取り掛かれていない現状がある。
その中で、他企業と連携してリスク対策に取り組んでいる企業の事例は、そうした状況を打開するために有効なケースである。親密な企業と代替生産等の協力体制を構築しておく、所属する業種組合単位で相互支援する仕組みを整えておく、国内外の企業と連携して海外に進出するといったパターンが見られた。
中小企業に求められる課題
3つ目の「中小企業におけるリスク対策のポイント」では、中小企業が今後どのようにリスク対策を行っていくべきかのポイントを挙げている。①自助努力と相互補完、②連携を活用したリスク対策の4タイプ、③企業間連携の成立条件、という3点から中小企業が取り組むべき対策を紹介。
①「自助努力と相互補完」では、中小企業は、平時に生き残れる競争力に影響を及ばさない範囲で可能なリスク対策を講じるべきとした。②「連携を活用したリスク対策の4タイプ」では、連携を活用し災害リスクを抑えることが有効であるとし、取引先(大企業)との連携をはじめ、事業組合・団体などを介した連携などの4タイプに分けて紹介。③「企業間連携の成立条件」では、具体的な成立条件として、被災した企業を相互に支援するために、個々の中小企業が危機への耐性を高めることで、サプライチェーン全体のリスク対策の水準を上昇させられるとした。
前述の通りレポートは、[対策編]とともに[事例編]も発行されている。[事例編]では日産自動車、ホンダなど18社の取り組みをより具体的に解説している。
・日本公庫総研レポート「震災を契機とした中小企業のリスク対策への取り組み」[対策編]
http://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/soukenrepo_13_05_8_1.pdf
・日本公庫総研レポート「震災を契機とした中小企業のリスク対策への取り組み」[事例編]
http://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/soukenrepo_13_05_8_2.pdf
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
-
-
3線モデルで浸透するリスクマネジメントコンプライアンス・ハンドブックで従業員意識も高まる【徹底解説】パーソルグループのERM
「はたらいて、笑おう。」をグループビジョンとして掲げ、総合人材サービス事業を展開するパーソルグループでは、2020年のグループ経営体制の刷新を契機にリスクマネジメント活動を強化している。ISO31000やCOSO-ERMを参考にしながら、独自にリスクマネジメントの体制を整備。現場の業務執行部門(第1線)、ITや人事など管理部門(第2線)、内部監査部門(第3線)でリスクマネジメントを推進する3線モデルを確立した。実際にリスクマネジメント活動で使っているテンプレートとともに、同社の活動を紹介する。
2024/07/23
-
インシデントの第一報を迅速共有システム化で迷い払拭
変圧器やリアクタなどの電子部品や電子化学材料を製造・販売するタムラ製作所は、インシデントの報告システム「アラームエスカレーション」を整備し、素早い情報の伝達、収集、共有に努めている。2006年、当時社長だった田村直樹氏がリードして動き出した取り組み。CSRの一環でスタートした。
2024/07/23
-
「お困りごと」の傾聴からはじまるサプライヤーBCM支援
ブレーキシステムの開発、製造を手掛けるアドヴィックスは、サプライヤーを訪ね、丁寧に話しを聞くことからはじまる「BCM寄り添い活動」を2022年度から展開している。支援するのは小規模で経営体力が限られるサプライヤー。「本当に意味のある取り組みは何か」を考えながら進めている。
2024/07/22
-
-
危機管理担当者が知っておくべきハラスメントの動向業務上の指導とパワハラの違いを知る
5月17日に厚生労働省から発表された「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によると、従業員がパワハラやセクハラを受けていると認識した後の勤務先の対応として、パワハラでは約53%、セクハラでは約43%が「特に何もしなかった」と回答。相談された企業の対応に疑問を投げかける結果となった。企業の危機管理担当者も知っておくべきハラスメントのポイントについて、旬報法律事務所の新村響子弁護士に聞いた。
2024/07/18
-
基本解説 Q&A 線状降水帯とは何か?集中豪雨の3分の2を占める日本特有の現象
6月21日、気象庁が今年初の線状降水帯の発生を発表した。短時間で大量の激しい雨を降らせる線状降水帯は、土砂災害発生を経て、被害を甚大化させる。気象庁では今シーズンから、半日前の発生予測のエリアを細分化し、対応を促す。線状降水帯研究の第一人者である気象庁気象研究所の加藤輝之氏に、研究の最前線を聞いた。
2024/07/17
-
-
災害リスクへの対策が後回しになっている円滑なコミュニケーション対策を
目を向けるべきOTリスクは情報セキュリティーのほかにもさまざま。故障や不具合といった往年のリスクへの対策も万全ではない。特に、災害時の素早い復旧に向けた備えなどは後回しになっているという。ガートナージャパン・リサーチ&アドバイザリ部門の山本琢磨氏に、OTの課題を聞いた。
2024/07/16
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方