2018/08/05
ニュープロダクツ

誰でも簡単に組み立てて設置することができる仮設トイレが誕生した。カワハラ技研(東京都中央区)が開発した「ほぼ紙トイレ」。その名の通り、素材はほぼ紙だけ。便槽となるタンク(樹脂)の上に、耐水性で強度が高い特殊な厚紙を六角形状に組み立て、硬質発砲スチロールでできた便器を設置すれば完成。壁はもちろん、タンクや便器にいたるまで、すべて可燃材で、使用後は、可燃性粗大ごみとして処分することができる(災害後は自治体の指示に従うことになる)。複雑な金具を一切使っておらず、工具を使うことなく、女性2人でも、20分あれば組み立てられるという。
災害後のトイレ問題を改善
被災地で毎度のように問題となるトイレ。断水や下水道、排管類の被災でトイレは使えなくなり、仮設トイレが運び込まれるまでは便器をビニール袋で覆ったタイプの非常用トイレが使われることが多くなる。NPO法人日本トイレ研究所が2013年3月11日に発表した「東日本大震災3.11のトイレ - 現場から学ぶ」によれば、仮設トイレが被災自治体の避難所にいきわたるまでの日数は、3日以内が34%、4~7日が17%、8日以上が49%を占める。また、仮設トイレが届いても、十分な数ではなく、すぐに満タンになってしまうこともある。
こうしたトイレの問題を解決しようと、同社では、普段は備蓄をしておいて、被災時に少人数ですぐに組み立てられることなどを設計コンセプトにした仮設トイレを開発した。壁の素材は、選挙用ボードに使われている白い厚紙。暴風にも耐え、撥水性が高く頑丈な紙だ。これに、基礎となる樹脂タンク(便槽)と、硬質発砲スチロールの超軽量の便器(約1.8㎏)を組み合わせるだけで完成。2つのパーツに分けて保管し、それぞれが30㎏程度の重さ。分散して運ぶことができるため、多少離れた場所でも2人いれば簡単に組み立てることができるという。
備蓄に必要なスペースも、便槽(縦横約1.3m、高さ60㎝)を除けば、あとは、壁部を折りたたんで写真下のように収納するだけ。便器は便槽に収納して保管することができるようになっている。


50人が1週間使える大容量
開発のきっかけになったのは熊本地震。
「被災地に行った環境省の方々から、トイレが不衛生で大変な状態になっているという話を聞き、自分たちだけで組み立てられるような仮設トイレが考えられないか検討を始めた」と代表取締役の川原愉氏は振り返る。
女性ボランティアへのヒアリングを通じて、女性への配慮も重視した。災害時でも気持ちよく使えるよう、色は清潔感のあるホワイトに。また、防犯性を高めるため、あえて内開きにし、夜間用のLED照明も標準装備とした。
一方、便槽は一般的な仮設トイレと比べてもかなり大きめの400リットルとした。「大人50人が約1週間使える量」だという。バイオ製剤により、防臭・抗菌対策も施している。
使用済みとなったタンクは、バキューム処理後は可燃性粗大ゴミとして所轄自治体の指示従い処分することになる。フォークリフトでも運びやすいよう、便槽の下部には、フォーク部先端のツメが刺さるスペースを設けるなど細かな点まで配慮している。
すでにこのトイレを導入した大手物流施設では、災害時に、自社の社員だけではなく、周辺の住民にもトイレを貸し出すことを決めているという。川原氏は「紙製のため、簡単に外壁に自社のロゴを入れることができ、CSRの一環にも役立てられるのでは」と話している。
(了)
ニュープロダクツの他の記事
おすすめ記事
-
-
ゲリラ豪雨を30分前に捕捉 万博会場で実証実験
「ゲリラ豪雨」は不確実性の高い気象現象の代表格。これを正確に捕捉しようという試みが現在、大阪・関西万博の会場で行われています。情報通信研究機構(NICT)、理化学研究所、大阪大学、防災科学技術研究所、Preferred Networks、エムティーアイの6者連携による実証実験。予測システムの仕組みと開発の経緯、実証実験の概要を聞きました。
2025/08/20
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/08/19
-
-
-
-
「自分の安全は自分で」企業に寄り添いサポート
海外赴任者・出張者のインシデントに一企業が単独で対応するのは簡単ではありません。昨今、世界中のネットワークを使って一連の対応を援助するアシスタンスサービスのニーズが急上昇しています。ヨーロッパ・アシスタンス・ジャパンの森紀俊社長に、最近のニーズ変化と今後の展開を聞きました。
2025/08/16
-
-
白山のBCPが企業成長を導く
2024年1月1日に発生した能登半島地震で震度7を観測した石川県志賀町にある株式会社白山の石川工場は、深刻な被害を受けながらも、3カ月で完全復旧を実現した。迅速な対応を支えたのは、人を中心に据える「ヒト・セントリック経営」と、現場に委ねられた判断力、そして、地元建設会社との信頼関係の積み重ねだった。同社は現在、埼玉に新たな工場を建設するなどBCPと経営効率化のさらなる一体化に取り組みはじめている。
2025/08/11
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方