2011/03/25
事例から学ぶ
リスク対策.com 2011年3月号掲載記事
2度の悪夢から希望へ
2000 年6月27 日、雪印乳業大阪工場(大阪市都島区)で製造された「雪印低脂肪乳」を飲んだ子どもが、嘔吐や下痢などの症状を呈したとして、大阪市保健所に食中毒の疑いが通報された。被害者1万3000 人〜1万4000 人ともいわれる前代未聞の食中毒事件の始まりだった。
当時、仙台にある東北統括支店でアイスクリーム部門の営業担当をしていたという現雪印メグミルク㈱CSR 部の利根哲也課長は、この日、取引先にいた。5〜6月というのは、アイスクリーム業界にとっては夏の販売に向け商談が決まる最も忙しい時期だ。
利根氏は、「お得意先が、新しい冷凍倉庫をオープンするということで、セレモニーに出席していたのですが、その最中に携帯が鳴り、支店からすぐに会社に戻って来いという連絡が入ったのです」と第一報が入った時の様子を説明する。
支店に戻った利根氏は、すぐに大阪に行けとの指示を受けた。「市乳部門、つまり牛乳の関係で何か大変なことが起きているから応援に行くんだということしか聞かされませんでした」(利根氏)。支店では利根氏を含め約20 人の応援部隊が結成され、利根氏は、メンバーの中で唯一の関西出身者ということでリーダーを任されることになった。
「恥ずかしい話ですが、あの時、あれだけの事件が起こっているという認識はまったくありませんでした。これが当時の雪印乳業の体質だったのだろうと思います」(利根氏)
一行は、その日のうちに大阪に入ったが、すでに夕刻時ということもあり、まずはホテルで休んで翌日に備えることにした。
翌朝、指定された時間に大阪にある関西販売本部に行くと、すでに人が殺到している状態。“東北から応援に来た”と言っても、誰も相手にしてくれなければ出迎えもない。「まずは会議室に通され、資料などが配布されて、事情の説明やら指示があると思っていましたが、実際には、それどころの状況ではありませんでした。目の前にどさっと紙の束を置かれ、とにかく手分けをして対応してくれとの指示だけでした」(利根氏)。
手渡された紙の束は、消費者から寄せられた苦情や、取引先からのクレーム。大阪、奈良、京都、和歌山、広島などの住所が書かれている。「とにかく尋常な事態でないことは一目瞭然でした。メンバーで割り振り、それぞれのお客様やお取引先様のところに行って、自力で対応しようということになりました」(利根氏)。
事件をめぐっては、毎日のように、テレビや新聞で新たな情報が発表された。「毎朝、会社で資料を受け取ってからお客様の元へ足を運んだのですが、途中、電気屋さんに立ち寄ってニュースを見ると、朝受け取った情報とはまったく違ったことが報道されていました。会社からの情報は入らず、外から情報を入れて対応していたというお粗末な状況です」(利根氏)。
雪印の商品を専門に扱う牛乳販売店に行くと、店でも電話が鳴り続けている。店員は涙を流しながら対応をしていた。「お邪魔しても、何もできることがなく、ただ茫然と立ちつくしているしかありませんでした」と利根氏は当時の心境を振り返る。
「あるお客様の家では、牛乳だけでなくバターやチーズまで雪印のマークがついたものをすべて玄関に積まれ、気持ち悪いから全部持って帰ってくれと追い出されたこともありました」(利根氏)
こうして返品された商品は、社員がすべて会社に持ち帰り処分をした。「あの年の6月は蒸し暑い陽気で、両手に返品された商品をぶら下げ、会社に戻り、また出発することを繰り返しました」。
当時、本社をはじめほとんど全国の工場や支店、営業所から社員が大阪に応援にかけつけた。
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