■細かなマニュアルは不要


阪神淡路大震災以降、災害対応マニュアルの必要性が叫ばれているが、老籾氏は「電源確保や水の調達などライフラインをどうするのかなど大まかなものは必要で しょうが、細かなものはいらないと思います」と持論を展開する。誰が何をすべきかを決めても、その人がいるかいないかも分からないし、夏場と冬場、あるいは時間帯でも被害が異なるため想定しきれないことが理由とする。

■甲南病院元院長の報告

阪神淡路大震災で、病院はどのような状況に陥ったのか。神戸市東灘区の市街地から約1㎞山手の住宅地に位置する病床数400を有する財団法人甲南病院元院長の老籾宗忠氏は、当時の状況を冊子にまとめた。

冊子には、震災当初から3日間で約1260人の外来患者があり、震災前からの入院患者に加え、新たに3日間で329人の入院患者が出て、各病棟の談話室、廊下などのスペースに簡易ベッドを作り患者を収容したことなど発災直後からの様子が、詳しく描かれている。

この中で老籾氏は、医療活動のあり方について、震災初日で総職員276人中、239人が参集するなど、比較的早い時間帯に職員が集まり、特に初動について医 療機材などを確保するなどの効果は大きかったとしながらも、「一時に多くの患者が殺到し、カルテを書く余裕が無かったことを考えると、初動にはさらに多く の医師の確保が必要で、医師は病院の近くに住むことができれば災害時に大きな力になる」と報告している。また医師や、看護婦のみならず、事務職員の手助け も、病院玄関から診療の場へ運んだり、エレベーターが使えない中、重症患者を上層階に階段で搬入するなど相当数必要だったと、当時の状況を記している。

老籾氏は「もし次に同様の災害が生じたら、患者および医師側双方それぞれが、災害医療遂行に対する自己の見識を持っているため、今回よりも混乱が生じること も考えられる」と指摘。その上で、打開策として医師が協力体制を取り、患者対策として事務職が看護婦不足を補うべき患者整理に活躍すべきだと強調している。