2013/08/22
防災・危機管理ニュース
では、ソーシャルメディアのリスク対策としてどのようなことを検討すればよいのだろうか。対策を検討するに先立って、昨今のソーシャルメディアが絡んだトラブル事例を振り返ってみたい(表2)。
これら以外にもソーシャルメディアが絡んだトラブルは頻発しているが、そのほとんどが次のタイプに分類される。
3.企業が講じるべき対策
前頁の事例やその特徴を整理し分類すると、企業として講じるべき対策は次の三点に集約される。①企業としてソーシャルメディアへの対応の基本的考え方を明確化する。②ソーシャルメディア利用に関するリスクと留意点を役職員に周知徹底する。③万が一、トラブルが発生した場合の対応体制を整備する。
①については、企業のスタンスを「ソーシャルメディアポリシー/ガイドライン/行動指針」といった形で整理することが推奨される。役職員がソーシャルメディアを公私において利用する際に遵守すべき姿勢・行動について簡潔に規定するものが一般的である。
②については、策定した「ソーシャルメディアポリシー/ガイドライン/行動指針」をベースにして、業務上やプライベートでのソーシャルメディアの利用実態を踏まえ、適切な利用の仕方を啓発することを目的として「利用マニュアル」といった形にまとめることが推奨される。企業アカウント運用者向けのマニュアルはもとより、個人利用についても利用上の留意点を明示することが望ましい。業務時間外での個人の利用を企業が制限することは困難であり、トラブル事例を紹介し、自分の何気ない行為が企業にも深刻な損失を与えかねないことを認識させることが重要である。トラブルの発端は、役職員だけでなく、派遣社員やアルバイト、まだ正式には入社していない内定者のケースもあり、各層を対象とした教育を検討する必要がある。
③については、策定されたガイドラインや利用マニュアルに従って適切な運用がなされているかをモニタリングするとともに、万が一、「炎上」といった事態に至った場合の対応手順を事前に整理しておくことが望ましい。想定される炎上のシナリオに基づいた「緊急時対応計画」を策定し、トラブルを認知した時点から時系列で関係者がどのタイミングでどのようなアクションを取る必要があるかを明らかにしておく。
4.おわりに
2013年1月、第二次安倍内閣がコミュニケーション施策の一環として、首相官邸の公式フェイスブックページを開設した。振り返れば2001年第一次小泉内閣がメールマガジン「らいおんはーと」で国民とのつながりに成功したことから、企業も積極的にウェブコミュニケーション戦略に乗り出した。同様に安倍内閣のフェイスブック利用から、個人だけでなく、企業をはじめとした様々な組織もますますソーシャルメディアの活用に積極的になると予想される。今後、どのような企業もソーシャルメディアとの関わりを避けて通ることは難しい。積極的に活用しなくても、従業員個人のプライベートでの活動に起因して、トラブルに直面する可能性も十分に考えられる。本稿が、ソーシャルメディアを優先的に対応すべきリスクととらえて速やかに対策を講じるきっかけとなり、ソーシャルメディアが拓く可能性をどう事業に活かすのかを検討する手がかりになれば幸いである。
■参考文献・資料等
1)ソーシャルメディア白書2012(翔泳社・2012年2月)
2)会社法務A2Z2013.4月号(第一法規株式会社)
3)ソーシャルメディア炎上事件簿(小林直樹・日経デジタルマーケティング・2011年8月)
4)ネット炎上であなたの会社が潰れる(伊地知晋一・WAVE出版・2009年6月)
5)広報会議(宣伝会議)2012年2月号、2013年6月号(株式会社宣伝会議)
※)
1)株式会社セレージャテクノロジー5月8日プレスリリース「アジア各国のFacebook推定ユーザ数」より
2)online to offlineの略称。主にEコマースの分野で用いられる用語で、オンラインとオフラインの購買活動の連携、ネット上(オンライン)での情報提供により実店舗(オフライン)での購買行動に影響を及ぼす、という意味。
【お問い合わせ】
株式会社インターリスク総研 コンサルティング第一部
CSR・法務第二グループ
※ 本稿は、マスコミ報道など公開されている情報に基づいて作成しております。また、本誌は、読者の方々および読者の方々が所属する組織のリスクマネジメント の取組みに役立てていただくことを目的としたものであり、事案そのものに対する批評その他を意図しているものではありません。
転載元:株式会社インターリスク総研 RMFOCUS Vol.46
- keyword
- ITセキュリティ
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/17
-
サイバーセキュリティを経営層に響かせよ
デジタル依存が拡大しサイバーリスクが増大する昨今、セキュリティ対策は情報資産や顧客・従業員を守るだけでなく、DXを加速させていくうえでも必須の取り組みです。これからの時代に求められるセキュリティマネジメントのあり方とは、それを組織にどう実装させるのか。東海大学情報通信学部教授で学部長の三角育生氏に聞きました。
2025/06/17
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方