著作権の概要
一身専属権たる著作者人格権と財産権たる狭義の著作権

山村 弘一
弁護士・公認不正検査士/東京弘和法律事務所。一般企業法務、債権回収、労働法務、スポーツ法務等を取り扱っている。また、内部公益通報の外部窓口も担っている。
2024/02/21
弁護士による法制度解説
山村 弘一
弁護士・公認不正検査士/東京弘和法律事務所。一般企業法務、債権回収、労働法務、スポーツ法務等を取り扱っている。また、内部公益通報の外部窓口も担っている。
先月、漫画家の方が自死された非常に痛ましい出来事がありました。これは、漫画作品のテレビドラマ化における著作権に関するトラブルに起因しているのではないかと考えられており、著作権やその取扱いについても社会の大きな関心を集めることとなりました。
この出来事の詳細な経緯等については、これから調査が適正に進められていくことと思いますが、一連の報道の中で言及されている著作権について、今回は取り上げてご説明したいと思います。
著作権は、「著作者」が「著作物」について有する権利として構成されています。そのため、著作権を理解するには、その前提として、「著作者」「著作物」の理解が不可欠になります。
まず、「著作物」については、下表のようになっています。
なお、著作権法10条1項各号では、著作物が例示されており、小説・脚本、音楽、舞踏、美術、建築、地図、映画、写真、プログラムなどの著作物が挙げられています(ただし、あくまでも例示に過ぎないことに留意が必要です)。
次に、「著作者」については、「著作物を創作する者」(著作権法(以下、括弧内で法名省略)2条1項2号)と規定されています。実際に創作した者が著作者とされますので、単なる発注者・発案者・資金提供者などは、著作者に当たらないことになります。
著作権法17条1項において、「著作者は、次条第1項、第19条第1項及び第20条第1項に規定する権利(以下「著作者人格権」という)並びに第21条から第28条までに規定する権利(以下「著作権」という)を享有する」と定められています。
同法では、21条から28条で規定されている権利をまとめて「著作権」としており、これが一般に狭義の著作権と呼ばれています。その上で、著作者人格権と狭義の著作権とを合わせて、一般に広義の著作権と呼ばれています。
著作者人格権は、特定の権利主体(この場合は著作者)だけが享有・行使できる一身専属権ですので、権利を譲渡することはできません。一方、狭義の著作権は、財産権として位置づけされていますので、譲渡することが可能です。
また、「著作者人格権及び著作権の享有には、いかなる方式の履行をも要しない」(17条2項)とされており、広義の著作権の発生については、出願や登録といった手続をとる必要はありません。これは無方式主義と呼ばれています。
狭義の著作権は、著作権法21条から28条で規定されている権利(支分権とも呼ばれています)の総称であり、権利の束・支分権の束であるなどと表現されます。
狭義の著作権には、①複製権(21条)、②上演権・演奏権(22条)、③上映権(22条の2)、④公衆送信権・公衆伝達権(23条)、⑤口述権(24条)、⑥展示権(25条)、⑦頒布権(26条)、⑧譲渡権(26条の2)、⑨貸与権(26条の3)、⑩翻訳権・編曲権・変形権・翻案権(27条)、⑪二次的著作物の利用権(28条)があります。
狭義の著作権は財産権であるため、譲渡の対象になりますし、相続の対象にもなります。このため、「著作者」と「著作権者」(狭義の著作権を有している者)とが一致しない場合が生じます。また、狭義の著作権については、一部のみ(一部の支分権のみ)を譲渡することも可能ですので、著作権者が複数存在しているという事態も生じ得ます。狭義の著作権については、こういった点に留意が必要であるといえます。
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