早春の嵐――3月の気象災害――
暴風や強風による被害が起きやすい

永澤 義嗣
1952年札幌市生まれ。1975年気象大学校卒業。網走地方気象台を皮切りに、札幌管区気象台、気象庁予報部、気象研究所などで勤務。気象庁予報第一班長、札幌管区気象台予報課長、気象庁防災気象官、気象庁主任予報官、旭川地方気象台長、高松地方気象台長などを歴任。2012年気象庁を定年退職。気象予報士(登録番号第296号)。著書に「気象予報と防災―予報官の道」(中公新書2018年)など多数。
2024/03/20
気象予報の観点から見た防災のポイント
永澤 義嗣
1952年札幌市生まれ。1975年気象大学校卒業。網走地方気象台を皮切りに、札幌管区気象台、気象庁予報部、気象研究所などで勤務。気象庁予報第一班長、札幌管区気象台予報課長、気象庁防災気象官、気象庁主任予報官、旭川地方気象台長、高松地方気象台長などを歴任。2012年気象庁を定年退職。気象予報士(登録番号第296号)。著書に「気象予報と防災―予報官の道」(中公新書2018年)など多数。
3月の気象の特徴を一言で述べよと問われたら、何と説明するか。「天気が変わりやすい」「周期変化」「気温の変化が大きい」などの説明が並びそうだ。風についてはどうか。3月は風が強いというイメージを抱いている読者はおられるだろうか。本稿では、気候表に基づき、春の風の吹き方について考察してみる。
表1に、東京の風に関する月別平年値を示す。月平均風速は、冬(12・1・2月)より夏(6・7・8月)の方が強くなっている。月平均風速が最も強いのは4月と7月で、どちらも3.2メートル/秒である。ただし、この両月は最多風向が異なり、4月は北北西、7月は南が最多である。4月は冬の季節風のなごりの北北西風が優勢であり、7月は夏の季節風に海陸風現象の海風の要素が加わって南風が優勢になる。
統計値ではこのようになっているが、これは東京にお住まいの読者の感覚と一致しているであろうか。もし一致していないとすれば、人々が風について抱いている印象は、月平均風速によるものではないということになる。
表1には、最大風速が10メートル/秒以上に達する日数の月別平年値も示されている。これを見ると、月平均風速とはかなり趣が異なっている。気象庁の予報用語では、風速10~15メートル/秒を「やや強い風」、風速15~20メートル/秒を「強い風」と定義しているが、ここでは風速10メートル/秒以上を「強風」と呼ぶことにする。表1によれば、東京での強風日数は早春から春にかけての2月~4月に多く、3月が2.7日で最も多くなっている。夏(6・7・8月)は各月とも1日未満で、強風日は少ない。東京で春は風が強いと感じておられる読者がいるとすれば、それは風速10メートル/秒以上の強風日数でみた場合の特性に近いと言えるのではないか。
表1の右側に、東京における最大風速の歴代順位を10位まで示した。発現月は8~10月が多く、特に9月が多くなっている。要因には、名立たる台風が並んでいる。つまり、東京における記録的な暴風は、夏から秋にかけて、台風によって起こる。しかし、その頻度は小さい。それ以外の、比較的頻繁にみられる強風は春に多く、それをもたらすのは温帯低気圧である。東京における最大風速の歴代順位で、温帯低気圧によるものとしては、1955(昭和30)年3月の事例がやっと第10位にランクインしている。
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