労働基準法上の労働者
実質的に判断される労働者性

山村 弘一
弁護士・公認不正検査士/東京弘和法律事務所。一般企業法務、債権回収、労働法務、スポーツ法務等を取り扱っている。また、内部公益通報の外部窓口も担っている。
2024/03/27
弁護士による法制度解説
山村 弘一
弁護士・公認不正検査士/東京弘和法律事務所。一般企業法務、債権回収、労働法務、スポーツ法務等を取り扱っている。また、内部公益通報の外部窓口も担っている。
雇用契約・労働契約ではなく、業務委託契約等を締結することにより、受託者に自らの業務の遂行を担ってもらっている事業者は多いと思います。雇用契約・労働契約を締結し労働者として雇い入れると、労働基準法をはじめとする各種労働法規の適用を受けることになり、事業者(使用者)側にとっては、それが事業コストとなります。
また、事業者(使用者)側から雇用契約・労働契約を解除する(労働者を解雇する)際には、いわゆる解雇権濫用法理(労働契約法16条)が適用されるなどしてハードルが高い場合が多く、業務量の増減に応じて臨機応変に労働力を増減させるという観点からも、柔軟性を欠く面があることは否定しきれません。
この点、業務委託契約は、民法上の契約としては、その内容に応じて、(準)委任契約や請負契約に分類されるものではありますが、各種労働法規の適用を受けることは、(少なくとも形式上は)ありませんし、雇用契約・労働契約の解除(解雇)に比して、契約の解除は容易に認められます。このため、業務委託契約は事業者にとって魅力的な契約であるといえます。
しかしながら、委託者・受託者間で、仮に「業務委託契約」という名称の契約書を交わしていたとしても、その内容・実態に照らして、受託者が「労働者」であると認められると、労働基準法が適用されることになります。契約の名称は、契約の性質を判断する上で一つの判断要素になりますが、それだけ(形式面だけ)で決まるものではなく、あくまでも、実質的に判断されるものなのです。
このため、業務委託契約を締結する際には、形式を整えるだけでなく、実体もそれに相応しいものにしなければなりませんし(受注者を「労働者」として扱わないようにしなければなりませんし)、それが難しいような業務を担ってもらいたいのであれば、それは、そもそも業務委託契約という方法を採用することが適切でない局面であるというべきです。
労働基準法における「労働者」性の判断は、育児介護休業法、労働者派遣法等でも基本的には同じものであるとされており、また、労働契約法でもおおむね同様であると考えられています。そこで今回、労働基準法の「労働者」について取り上げてみたいと思います。なお、労働組合法上の「労働者」の概念とは異なるとされていますので、ご留意ください。
弁護士による法制度解説の他の記事
おすすめ記事
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方