2024/04/11
令和6年能登半島地震
能登半島地震発生から6日後に、SAPジャパン(東京都千代田区、鈴木洋史社長)に災害支援の依頼が届いた。避難所の状況把握のため、最前線で活動していた自衛隊やDMAT(災害派遣医療チーム)の持つ避難所データを統合する依頼だった。状況が切迫するなか、3日でアプリケーションを開発。民間企業の強みを最大限に発揮した。
早急の避難所データ統合
SAPジャパンに能登半島地震の支援依頼が入ったのは1月7日。同社が参加している「防災DX官民共創協議会」のメンバーを通じての依頼だった。同協議会は防災分野のデータ連携の促進を目指して官民が連携した組織。現在、97の地方自治体と328の民間団体が参加している(2024年3月8日現在)。
同日15時には、石川県庁の危機管理課やデジタル推進課などを交えたミーティングがオンラインで開かれた。課題となっていたのは避難所の把握だった。
従来なら石川県庁が導入している総合防災システムに、避難所の情報を入力するのは市町村のような基礎自治体だ。しかし、能登半島地震では多くの道路が寸断。多数の孤立集落や自主避難所が発生し、避難している場所や避難者の人数把握が難しくなっていた。
SAPジャパンのインダストリシニアアドバイザーである浅井一磨氏は「被災者が避難している場所や人数を、石川県が迅速に確認できない状況になり、必要な物資や支援が届けられないリスクを抱えていた」と振り返る。各避難所への支援の前提となるデータが、県の総合防災システムに集約できていなかった。
石川県としては、被災した基礎自治体支援のために必要な、避難所の住所などの情報が入ってこない。一方で、先行して被災地に入り救助や支援を開始していた自衛隊とDMATのもとには、収集した避難所情報の蓄積があった。
そこで、自衛隊やDMATが持つ避難所情報の活用に動いた。しかし、スムーズにことは運ばない。簡単にデータを統合できなかった。なぜなら、自衛隊はサイボウズの「キントーン」、DMATなら「D24H」と、それぞれのシステムに避難所情報を入力して活動していたからだ。
石川県庁は、早急に指定避難所の情報と自衛隊やDMATなどが収集した自主避難所、孤立集落の情報を突き合わせ、整理する必要があった。同社のパートナーエコシステムサクセスでストラテジストを務める吉田彰氏は、県の総合防災システムに登録できるよう「キントーン」と「D24H」と、出所が異なる避難所のデータ整理・集約にすぐに着手した。最初の2日間はまさに寝ずの作業だったという。
「例えば、同じ避難所であっても一方の登録名は◯◯高校、他方では◯◯高等学校で登録されている。ほかにも、同じ場所であっても□□町公民館や□□集会所と別々の名前で登録されていました。データを突き合わせて統合し、整理していくのが役割でした」(吉田氏)
ここで問題となったのは、データの整理にともなう選択を誰が下すのか。浅井氏は「一見重複しているように見える自主避難所や孤立集落の情報であっても、住所の記載の違い、表記の差異があり、かつ、避難者数にも違いがあった。そこから避難所を正しく選択する必要があった」と説明する。
データは支援物資の輸送にも使われるため、記載の誤りが避難者の命に関わる。当時、指定避難所の情報は404カ所。それに加え、孤立集落や自主避難所の情報が重複も含め約1200カ所存在した。
事例から学ぶの他の記事
おすすめ記事
-
競争と協業が同居するサプライチェーンリスクの適切な分配が全体の成長につながる
予期せぬ事態に備えた、サプライチェーン全体のリスクマネジメントが不可欠となっている。深刻な被害を与えるのは、地震や水害のような自然災害に限ったことではない。パンデミックやサイバー攻撃、そして国際政治の緊張もまた、物流の停滞や原材料不足を引き起こし、サプライチェーンに大きく影響する。名古屋市立大学教授の下野由貴氏によれば、協業によるサプライチェーン全体でのリスク分散が、各企業の成長につながるという。サプライチェーンにおけるリスクマネジメントはどうあるべきかを下野氏に聞いた。
2025/12/04
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/12/02
-
-
-
-
-
-
目指すゴールは防災デフォルトの社会
人口減少や少子高齢化で自治体の防災力が減衰、これを補うノウハウや技術に注目が集まっています。が、ソリューションこそ豊富になるも、実装は遅々として進みません。この課題に向き合うべく、NTT 東日本は今年4月、新たに「防災研究所」を設置しました。目指すゴールは防災を標準化した社会です。
2025/11/21
-
サプライチェーン強化による代替戦略への挑戦
包装機材や関連システム機器、プラントなどの製造・販売を手掛けるPACRAFT 株式会社(本社:東京、主要工場:山口県岩国市)は、代替生産などの手法により、災害などの有事の際にも主要事業を継続できる体制を構築している。同社が開発・製造するほとんどの製品はオーダーメイド。同一製品を大量生産する工場とは違い、職人が部品を一から組み立てるという同社事業の特徴を生かし、工場が被災した際には、協力会社に生産を一部移すほか、必要な従業員を代替生産拠点に移して、製造を続けられる体制を構築している。
2025/11/20
-
企業存続のための経済安全保障
世界情勢の変動や地政学リスクの上昇を受け、企業の経済安全保障への関心が急速に高まっている。グローバルな環境での競争優位性を確保するため、重要技術やサプライチェーンの管理が企業存続の鍵となる。各社でリスクマネジメント強化や体制整備が進むが、取り組みは緒に就いたばかり。日本企業はどのように経済安全保障にアプローチすればいいのか。日本企業で初めて、三菱電機に設置された専門部署である経済安全保障統括室の室長を経験し、現在は、電通総研経済安全保障研究センターで副センター長を務める伊藤隆氏に聞いた。
2025/11/17






※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方