2024/08/24
防災・危機管理ニュース
東京電力福島第1原発の処理水放出に伴う中国の水産物禁輸を受け、日本の官民は主力品目だったホタテ貝の新市場開拓を加速させている。輸出額は放出前を依然下回るが、米国向けが急増するなど流通構造は激変。加工体制の見直しも進み、サプライチェーン(供給網)の「脱中国」が鮮明になっている。
処理水放出前、中国向けは輸出額の5割超を占めた。中国に殻付きのホタテを輸出し、同国で加工後に米国に供給するケースが多かった。これが途絶したため、水産業者は死活問題に直面。政府は昨年9月、1007億円の水産業支援策をまとめ、輸出先多角化や国内加工体制の強化を推進してきた。
日本貿易振興機構(ジェトロ)は、イベントなどを通じて2023年度に海外バイヤーと水産業者の商談を1400件以上設定。水産物の中でも、肉厚な日本のホタテへの関心は高く、米国の卸会社が調達を決めるなどの成果が出たという。今後は富裕層が多い中東などの新興国市場や、日本食以外の需要開拓に注力する。
今年1~6月のホタテ輸出額は前年同期比37%減の241億円。中国が抜けた穴は大きいが、その一方で米は64%増、台湾は21%増となった。ジェトロの石黒憲彦理事長は「そう時間がかからず、ある程度埋め合わせできる」と見込む。
ホタテの一大産地・北海道では構造変化を見据え、加工体制増強が相次ぐ。水産大手の極洋は7月、「海外に依存しない生産体制を整える」として、カナダ企業と北斗市に合弁会社を設立。北海道漁業協同組合連合会は来年春にも稚内市で新工場を稼働させる。
水産加工のきゅういち(函館市)は、生産効率化に向け新たな冷凍設備などを導入した。同社は禁輸後、一時数十トンの在庫を抱え、「販売先多角化が経営リスク分散につながる」(中西由美子取締役)と痛感。国内外で幅広く取引を進める考えだ。
ジェトロは1月にベトナム、3月にメキシコへ視察団を派遣、中国の代替加工地を探す動きも活発化させている。中国依存の危うさが露呈し、石黒理事長は「(将来も)商流が単純に昔に戻ることはまずあり得ない」と指摘している。
〔写真説明〕日本貿易振興機構(ジェトロ)が2月にメキシコで行ったホタテ加工の実証実験(同機構提供)
(ニュース提供元:時事通信社)

防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方