2014/10/02
防災・危機管理ニュース
【特別寄稿】
過去の経験を生かせ
特定非営利活動法人 日本サプライマネジメント協会TM
上原修
長野県と岐阜県に跨る御嶽山の噴火で思い出すのは2010年のアイスランドのエイヤフィヤトラヨークトルの噴火である。アイスランドの氷河に覆われた火山の噴火により噴出した火山灰が、ヨーロッパ大陸上空に広く滞留した結果、多数の航空便が欠航して社会的活動に支障をきたした。
航空便の発着が大きな規模で中止され、代替交通手段となった陸上交通機関と海上航路も混乱したのは記憶に新しい。空気中に火山灰が拡散したことにより、ヨーロッパにおける多数の国で領空が封鎖された。それにより航空便の飛行が不可能となり、ヨーロッパのフライト、ヨーロッパ以外の地域からヨーロッパへ向う航空便もキャンセルされた。
当時、英国人記者を含む私の複数の友人がパリやロンドンの空港で足止めされた。イギリス中部のマンチェスターやバーミンガム、またアイルランドの空港が新たに閉鎖されたのに続き、ヒースロー空港も閉鎖された。航空便が発着するヨーロッパ各国では、領空が封鎖されすべての空港が閉鎖される地域と、部分的にフライトを認め、空港も一部運行している地域に分かれたことにより航空網に世界的な混乱が生じ、観光、物流、各種イベントなどにも影響は波及していった。
友人もそうだが、当時使える空港を求めて南ヨーロッパに陸路で向かう旅行者や代替交通手段を使おうとする旅客などで、ヨーロッパ各地の鉄道やフェリーも混乱した。 ヨーロッパでは1日だけで2万便が欠航となり、その後の飛行制限は6万3000便、国際航空運送協会の試算では、航空会社の損失額は2億ドル/日となったようだ。航空専門のコンサルティング会社は、こうした全便欠航が3日間継続した場合の経済損失は10億ドルにも及ぶと推計しており、運航規制解除後も航空便のスケジュール回復に時間がかかるとした。
一般に火山灰は、飛行機の計器に詰まるおそれや、機体の表面に火山灰が付着し、飛行中における微妙な重量のバランスを狂わせるおそれがあるとされる。火山灰には、マグマから発生するガラス質の粒子を含んでいる可能性もあり、これがエンジンの中に入ると、飛行中のエンジンの高温で溶け、エンジンに損傷を与えるなどのおそれがあるという。
当時は、空域閉鎖に伴い、ヨーロッパ内およびヨーロッパと他地域との間での航空機による物資の輸送、物流網が不可能になったため、世界各国で生産活動に必要な材料や製造物、生鮮食品等の流通が滞り、経済活動に大きな影響が出たと報道された。このうち、日本を含むアジアの状況を見ると、日本では、日産自動車が部品の供給が中断したことにより、2010年4月、日本での3モデルの製造中止を発表。2つの工場では2000台の車両の製造が停止した。中国の広東省の工場では、衣類や宝石類の航空便による出荷が延期され、韓国では、サムスン電子とLGエレクトロニクスが、電子機器の製品の輸出において毎日20%以上を空輸することができなかった。さらに香港工業總會によると、香港のホテルとレストランでヨーロッパ産商品の不足に直面していると発表された。
過去の事実関係を簡略に記したが、今回の噴火の影響で航空各社は飛行ルートや着陸先を変更するなどの対応に追われ、羽田発着の国内線を中心に遅れが相次いでいる模様だ。日本航空と全日空によると、御嶽山の噴煙が飛行ルートにかかる恐れがあったため、一部の便でルートを変更。この影響で、羽田空港を発着する国内線を中心に、30分から1時間程度の遅れが発生した。
気象庁は、上空1万m付近まで噴煙が達した可能性があり、火山灰が拡散する恐れもあるとして、航空各社などへ注意を呼び掛けている。 日本の物流もグローバル化の波、および電子商取引から航空輸送が主力になりつつある。物流の基本知識では、次の通り、陸・海・空を含む5つの輸送様式がある。
物流専門家でなくともこれらの様式は予想のつくところだが、実務家は専門性を追求するあまり時々基本を放念することがある。例えば、これらの各様式別に長所と短所を挙げてみなさいと言った時、躊躇するなどである。
以下は英語表現で恐縮だが、筆者が主宰する研究会でまとめた内容を示す。
実務家なら当然、頭の中では知っていることでも、実行面では障害が多いのも事実であり、当該会社が何故実行できないか、教科書やテキストでは基本要素のはずが、顧客の会社によって制約があるのも理解できる。そこにこそ3PLとしての専門性(エキスパートスキル)を発揮して社会に貢献することで顧客満足が得られるわけである。
世界中に広まったインターネットによる迅速な商取引で益々航空便が利用されることになるが、そこにはリスクも伴う。今回の噴火では4年前のアイスランドほどの航空規制は発生していないが、今後、航空便によるサプライチェーンを計画する際に、過去の教訓や事故の経緯、経過、また結果の行動、反省などを記録しておき社内に残すことが重要になる。しかし、なぜか日本企業は、人的な引継ぎを怠ることはなくても、社内で起きた過去の事故や失敗を残さない傾向を筆者は多く見てきた。前任者の欠陥を指摘することが良くないという気持ちはわかるが、会社の、企業の資産として記録し全社員と共有することは決して間違いではないと思料する。
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