2024/12/31
防災・危機管理ニュース
政府は、発生から1年を迎える能登半島地震など度重なる災害の教訓を生かすため、事前防災から復旧・復興までを一元的に担う「防災庁」の創設を目指している。今後想定される南海トラフ地震や首都直下型地震などの大規模災害に備え、危機管理の体制を強化する考えだ。
「十数年訴えているもので思いは強い」。石破茂首相は自身の肝煎り政策である防災庁設置について、周囲にこう語る。現在の内閣府防災部門の予算と人員を増やし、専任の閣僚を置いて災害対応の司令塔とする。2026年度中の設立に向け、11月に準備室を発足させ、全閣僚による会議も設置した。将来的には「防災省」へ格上げすることを視野に入れる。
念頭にあるのは米国の連邦緊急事態管理庁(FEMA)で、同組織は全米に10カ所の地域事務所があり、7000人を超える職員が災害対応を担う。これに対し、内閣府防災部門の体制は約110人。主に各省庁からの出向者で構成され、2~3年で人事異動するため専門性が蓄積されにくいと指摘される。政府はまず、25年度に定員を大幅に増やし、47都道府県ごとに担当者を配置するなどの取り組みを進める。
避難所の環境改善も首相の関心の高いテーマだ。16年の熊本地震の災害関連死は220人超、能登半島地震では240人超となった。11月の所信表明演説では、避難所における生活環境の最低基準を定めた「スフィア基準」を全国で満たすと表明した。イタリアなどの先進事例を踏まえ、資機材・物資の分散備蓄などを進めることを想定している。防災庁は自治体や関係機関と連携し、平時にはこうした調整も担うとみられる。
日本の防災体制は、1995年の阪神・淡路大震災を契機に強化を図ってきた。政府は情報収集に手間取り初動が遅れた反省を踏まえ、関係省庁の局長級による緊急参集チームを創設し、翌年には首相官邸に危機管理センターを設置。98年に内閣危機管理監ポストを新設して、官邸主導の危機管理体制を整備してきた。熊本地震では被災自治体の要請を待たず物資を送る「プッシュ型支援」を始め、能登半島地震でも実施した。
防災部門の組織改編に関しても、これまでに政府内で検討が行われた。だが、15年に関係副大臣会合がまとめた報告書では、現在の仕組みは合理性があり機能しているとして、「危機管理対応官庁の創設は積極的な必要性は見いだし難い」と見送った。既存省庁との役割分担などが課題で、現在でも「屋上屋を架す」との批判は根強い。
それでも災害対応の最前線に立つ地方自治体からは創設を求める声が相次ぐ。岩田孝仁静岡大特任教授(防災政策)は、「災害時には業務が急激に増えるが、自治体は職員数が減るなど余力がなくなってきている。自然災害の多い日本では、専任の職員が平時から災害時まで一貫して政策を実行する国の体制を整備すべきだ」と指摘する。
〔写真説明〕防災立国推進閣僚会議で発言する石破茂首相(左から2人目)=12月20日、首相官邸
〔写真説明〕防災庁設置準備室の看板を掛ける石破茂首相(左)と赤沢亮正担当相=11月1日、東京都千代田区(代表撮影)
(ニュース提供元:時事通信社)


- keyword
- 防災庁
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
競争と協業が同居するサプライチェーンリスクの適切な分配が全体の成長につながる
予期せぬ事態に備えた、サプライチェーン全体のリスクマネジメントが不可欠となっている。深刻な被害を与えるのは、地震や水害のような自然災害に限ったことではない。パンデミックやサイバー攻撃、そして国際政治の緊張もまた、物流の停滞や原材料不足を引き起こし、サプライチェーンに大きく影響する。名古屋市立大学教授の下野由貴氏によれば、協業によるサプライチェーン全体でのリスク分散が、各企業の成長につながるという。サプライチェーンにおけるリスクマネジメントはどうあるべきかを下野氏に聞いた。
2025/12/04
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/12/02
-
-
-
-
-
-
目指すゴールは防災デフォルトの社会
人口減少や少子高齢化で自治体の防災力が減衰、これを補うノウハウや技術に注目が集まっています。が、ソリューションこそ豊富になるも、実装は遅々として進みません。この課題に向き合うべく、NTT 東日本は今年4月、新たに「防災研究所」を設置しました。目指すゴールは防災を標準化した社会です。
2025/11/21
-
サプライチェーン強化による代替戦略への挑戦
包装機材や関連システム機器、プラントなどの製造・販売を手掛けるPACRAFT 株式会社(本社:東京、主要工場:山口県岩国市)は、代替生産などの手法により、災害などの有事の際にも主要事業を継続できる体制を構築している。同社が開発・製造するほとんどの製品はオーダーメイド。同一製品を大量生産する工場とは違い、職人が部品を一から組み立てるという同社事業の特徴を生かし、工場が被災した際には、協力会社に生産を一部移すほか、必要な従業員を代替生産拠点に移して、製造を続けられる体制を構築している。
2025/11/20
-
企業存続のための経済安全保障
世界情勢の変動や地政学リスクの上昇を受け、企業の経済安全保障への関心が急速に高まっている。グローバルな環境での競争優位性を確保するため、重要技術やサプライチェーンの管理が企業存続の鍵となる。各社でリスクマネジメント強化や体制整備が進むが、取り組みは緒に就いたばかり。日本企業はどのように経済安全保障にアプローチすればいいのか。日本企業で初めて、三菱電機に設置された専門部署である経済安全保障統括室の室長を経験し、現在は、電通総研経済安全保障研究センターで副センター長を務める伊藤隆氏に聞いた。
2025/11/17






※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方