2014/12/17
防災・危機管理ニュース
─多様な危機発生事例から探る課題と展望─
編者:バーテル・バンドワールほか 監訳者:村山優子 発行日:2014年7月31日 発行:近代科学社 定価:(本体8000円+税) ISBN:978-4-7649-0445-3 |
岩手県立大学ソフトウェア情報学部の村山優子氏監訳による力作。2012年1月、ハワイ大学主催で毎年開催されている国際会議Hawaii International Conference on System Sciences (HICSS)で著者はニュージャージー工科大学名誉教授Starr Roxanne Hilts氏と出会う。著者が東日本大震災後に日本では災害に対するIT支援と、その過程における災害コミュニケーションという新たな課題が見つかったことを話すと、Hilts氏は即座に「アメリカでは数十年前からやっている。書籍や資料を紹介しよう」と答えた。この会話から誕生したのが本書だ。
この本の大きな特徴は、Hilts氏はじめ多くの編集者や著者がコンピュータサイエンティストであること。著者によると日本ではリスクマネジメントにおける情報システム分野は、その多くが土木などコンピュータ専門ではない工学系や、医療、心理学分野などの研究者が中心となって研究開発が進められているという。一方、米国では緊急事態管理の情報システムという観点から、コンピュータ系の研究者が初めから研究に加わっているとする。
もちろん本書ではコンピュータ系の話ばかりではなく、救急医療や法律、心理学、社会学など話は多岐にわたるため、訳者には岩手医科大学助教の秋冨真司氏ら実力派を揃えている。
情報システムの本とはいえ、本書は複雑な計算式やプログラミングを追求するものではない。第1章のサマリー部分にあるように、危機管理時のシステムの目的を「必要な情報を必要な時に、必要とされる場所に提供する技術は、災害による打撃を小さく抑えることができる。そのような技術があれば、管理者がさまざまな危険源(ハザード)に対し、より効率的に準備し想定外の事態が起こったとしても、より迅速に効果的に対応できる」とし、その実現のためには何が課題かを考察し、検証している。 第Ⅲ部「事例研究」では「人道的情報管理システムが都工面する課題-イラクの地雷対策活動における情報管理システムの一考察」「利用者間の視や点から見たミネソタ州組織間メーデー(Mayday)情報システム」など具体事例による現行システムの課題と評価を展開。第Ⅳ部「EMIS(緊急事態管理情報システム)の設計と技術」では、「国際人道緊急事態対応における宇宙技術の運用アプリケーション」「準リアルタイムな地球規模災害影響分析」など、これからのEMISのあり方を示唆している。
CONTENTS
第1章
緊急事態管理情報の領域
第Ⅰ部 基礎
第2章 災害対応システムのユーザインターフェース設計における問題空間の構成
第3章 公衆の保護と個人の権利の取り扱い
第Ⅱ部 個人と組織の意味合い
第4章 危機的状況における不適応的な対脅威反応硬直性の緩和
第5章 危機発生初期対応におけるツールの効果的利用法
第Ⅲ部 事例研究
第6章 STAT Pack (TM)微生物臨床検査とコンサルテーションのための緊急対応システム
第7章 緊急事態対応のコーディネーション人・プロセス・情報技術の役割の考察
第8章 人道的情報管理システムが直面する課題
第9章 利用者の視点から見たミネソタ州組織間メーデー(Mayday)情報システム
第Ⅳ部 EMISの設計と技術
第10章 シミュレーションと緊急事態管理
第11章 災害管理における地理的共同作業のためのユーザサポートタスクの構造と概念化
第12章 国際人道緊急事態対応における宇宙技術の運用アプリケーション
第13章 準リアルタイムな地球規模災害影響分析
第14章 緊急事態管理のためのリソース管理システムの標準化に向けて
第15章 環境リスク管理情報システムの要件とオープンアーキテクチャ
第16章 緊急事態対応情報システム-過去、現在、そして未来
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
-
-
3線モデルで浸透するリスクマネジメントコンプライアンス・ハンドブックで従業員意識も高まる【徹底解説】パーソルグループのERM
「はたらいて、笑おう。」をグループビジョンとして掲げ、総合人材サービス事業を展開するパーソルグループでは、2020年のグループ経営体制の刷新を契機にリスクマネジメント活動を強化している。ISO31000やCOSO-ERMを参考にしながら、独自にリスクマネジメントの体制を整備。現場の業務執行部門(第1線)、ITや人事など管理部門(第2線)、内部監査部門(第3線)でリスクマネジメントを推進する3線モデルを確立した。実際にリスクマネジメント活動で使っているテンプレートとともに、同社の活動を紹介する。
2024/07/23
-
インシデントの第一報を迅速共有システム化で迷い払拭
変圧器やリアクタなどの電子部品や電子化学材料を製造・販売するタムラ製作所は、インシデントの報告システム「アラームエスカレーション」を整備し、素早い情報の伝達、収集、共有に努めている。2006年、当時社長だった田村直樹氏がリードして動き出した取り組み。CSRの一環でスタートした。
2024/07/23
-
「お困りごと」の傾聴からはじまるサプライヤーBCM支援
ブレーキシステムの開発、製造を手掛けるアドヴィックスは、サプライヤーを訪ね、丁寧に話しを聞くことからはじまる「BCM寄り添い活動」を2022年度から展開している。支援するのは小規模で経営体力が限られるサプライヤー。「本当に意味のある取り組みは何か」を考えながら進めている。
2024/07/22
-
-
危機管理担当者が知っておくべきハラスメントの動向業務上の指導とパワハラの違いを知る
5月17日に厚生労働省から発表された「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によると、従業員がパワハラやセクハラを受けていると認識した後の勤務先の対応として、パワハラでは約53%、セクハラでは約43%が「特に何もしなかった」と回答。相談された企業の対応に疑問を投げかける結果となった。企業の危機管理担当者も知っておくべきハラスメントのポイントについて、旬報法律事務所の新村響子弁護士に聞いた。
2024/07/18
-
基本解説 Q&A 線状降水帯とは何か?集中豪雨の3分の2を占める日本特有の現象
6月21日、気象庁が今年初の線状降水帯の発生を発表した。短時間で大量の激しい雨を降らせる線状降水帯は、土砂災害発生を経て、被害を甚大化させる。気象庁では今シーズンから、半日前の発生予測のエリアを細分化し、対応を促す。線状降水帯研究の第一人者である気象庁気象研究所の加藤輝之氏に、研究の最前線を聞いた。
2024/07/17
-
-
災害リスクへの対策が後回しになっている円滑なコミュニケーション対策を
目を向けるべきOTリスクは情報セキュリティーのほかにもさまざま。故障や不具合といった往年のリスクへの対策も万全ではない。特に、災害時の素早い復旧に向けた備えなどは後回しになっているという。ガートナージャパン・リサーチ&アドバイザリ部門の山本琢磨氏に、OTの課題を聞いた。
2024/07/16
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方