2018/10/01
安心、それが最大の敵だ
消えた日本選手
マラソン中に消えた日本人の話は地元で開催されたオリンピックの話題の一つとしてスウェーデンではしばらく語り草となっていた。また、マラソンを途中で止めた理由として、単にソレントゥナ(Sollentuna)のとある家庭で庭でのお茶会に誘われ、ご馳走になってそのままマラソンを中断したという解釈も示された。
当時の金栗はランナーとして最も脂ののった時期であり、大正5年(1916)のベルリンオリンピックではメダルが期待されたが、第一次世界大戦の勃発で開催中止となり出場することができなかった。その後、大正9年(1920)のアントワープオリンピック、大正13年(1924)のパリオリンピックでもマラソン代表として出場した。成績はアントワープで16位、続くパリでは途中棄権に終わっている。
大正6年(1917)、駅伝の始まりとされる東海道駅伝徒歩競走(京都の三条大橋と東京の江戸城・和田倉門の間、約508km、23 区間)の関東組のアンカーとして出走した。大正9年(1920)、第1回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)が開催され、金栗もこの大会開催のために尽力している。第1回大会の優勝校は金栗の母校・東京師範学校だった。
54年と8カ月6日5時間32分20秒3
昭和42年(1967)、スウェーデンのオリンピック委員会からストックホルムオリンピック開催55周年を記念する式典に招待された。ストックホルムオリンピックでは棄権の意思がオリンピック委員会に伝わっておらず、「競技中に失踪し行方不明」として扱われていた。記念式典の開催に当たって当時の記録を調べていたオリンピック委員会がこれに気付き、金栗を記念式典でゴールさせることにしたのである。招待を受けた金栗はストックホルムへ赴き、競技場をゆっくりと走って、場内に用意されたゴールテープを切った(日付は1967年3月21日)。この時、「日本の金栗、ただいまゴールイン。タイム、54年と8カ月6日5時間32分20秒3、これをもって第5回ストックホルムオリンピック大会の全日程を終了します」とアナウンスされた。54年8カ月6日5時間32分20秒3、という記録はオリンピック史上最も遅い!マラソン記録であり、今後もこの記録が破られることは無いだろう。金栗はゴール後のスピーチで「長い道のりでした。この間に孫が5人できました」と歓喜の声をあげた。
金栗が残した有名な言葉として「体力、気力、努力」が知られている。
晩年は故郷の玉名市で過ごし、昭和58年(1983)11月13日92歳で逝去した。金栗の功績を記念して富士登山駅伝及び東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)に「金栗四三杯」が創設されている。富士登山駅伝では一般の部の優勝チームに対して金栗四三杯が贈呈されている。また、箱根駅伝では2004年より最優秀選手に対して金栗四三杯が贈呈されている。他に「金栗記念選抜中・長距離熊本大会」や「金栗杯玉名ハーフマラソン大会」のように「金栗」の名を冠した大会もある。金栗は紫綬褒章を授与された。玉名市名誉市民である。
参考文献:「嘉納治五郎」(講道館)、「金栗四三」(佐山和夫)、「日本スポーツ創世記」、筑波大学付属図書館資料。
(つづく)
安心、それが最大の敵だの他の記事
おすすめ記事
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/10/14
-
走行データの活用で社用車をより安全に効率よく
スマートドライブは、自動車のセンサーやカメラのデータを収集・分析するオープンなプラットフォームを提供。移動の効率と安全の向上に資するサービスとして導入実績を伸ばしています。目指すのは移動の「負」がなくなる社会。代表取締役の北川烈氏に、事業概要と今後の展開を聞きました。
2025/10/14
-
-
-
-
トヨタ流「災害対応の要諦」いつ、どこに、どのくらいの量を届ける―原単位の考え方が災害時に求められる
被災地での初動支援や現場での調整、そして事業継続――。トヨタ自動車シニアフェローの朝倉正司氏は、1995年の阪神・淡路大震災から、2007年の新潟県中越沖地震、2011年のタイ洪水、2016年熊本地震、2024年能登半島地震など、国内外の数々の災害現場において、その復旧活動を牽引してきた。常に心掛けてきたのはどのようなことか、課題になったことは何か、来る大規模な災害にどう備えればいいのか、朝倉氏に聞いた。
2025/10/13
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/10/05
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方