2018/10/11
防災・危機管理ニュース

企業のM&A支援やフォレンジックサービスを手掛けるデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社は、上場企業内で起こる不正の実態、予防策や発生対応の状況をアンケート調査した「企業の不正リスク調査白書」を発表。3日、東京都内で記者発表会を開いた。ポリシー制定や内部通報制度など制度導入する企業の割合は高まっているものの、実際の通報件数は極めて少なく、運用面に課題があることが明らかになった。
同レポートは、2006年から定期的に行っており今回で6回目。調査結果によると、過去3年間に不正事例が1件以上あったと回答した企業は46.5%にのぼった。
不正の種別では、1位が窃盗・不正支出など「横領」で66.7%(複数回答可)。2位が架空売上・費用隠ぺいなど「不正会計」で31.2%。3位「情報漏えい」23.4%、4位「データ偽装(品質、産地、信用情報等)」17.0%と続いた。5位から8位は「カルテル・談合」「贈収賄」「利益相反」「インサイダー取引」の順で、いずれも1割未満にとどまった。
不正防止策は総じて実施率が高く、8割を超えたのは「不正防止ポリシー制定」で93.7%、「内部通報制度の設置」97.4%、「内部監査の実施」87.5%、「内部統制報告制度(J-SOX)の活用」82.8%、「従業員に対する不正防止研修」80.7%と上位5項目が8割を超えた。

一方、内部通報制度の通報件数は、全体で「0~5件」が54.8%と過半数を占め、年平均で15.6回と少なく、制度の実施率は高いが実際の運用が徹底されていない現状が明らかになった。
不正に対する危機意識については、2年前(2016年)と比べて不正リスクへの危機意識が高まったと回答した割合は69.6%。部門別の理解度を聞いたところ、「十分である」と回答したのは、内部監査部門が71.6%、法務・コンプライアンス部門が67.0%、経営者が61.7%と高いのに対し、営業・サービスは15.5%、製造9.6%、研究開発9.9%で低く、現場部門との温度差がある実態が明らかになった。
不正の情報発信について、不正発生時に公表の可否に影響を与える事項を複数回答可で聞いたところ、「顧問弁護士の助言」が70.3%と最も高い一方、「該当事項の専門分野に関する社外専門家の判断」は29.0%、「コンプライアンスに関する社外専門家の判断」は22.4%と低く、ブランド価値やレピュテーションなど社会的評価踏まえて公表の可否を適切に判断できる環境づくりには課題が残った。
調査を統括した同社シニアヴァイスプレジデントの後藤孝久氏は調査の結果をもとに、不正リスク対策に関する日本企業の課題として「運用の不徹底」「現場との温度差」「発信の消極性」の3点を挙げた。
記者発表会で有識者として登壇した青山学院大学名誉教授・八田進二氏は今回の調査結果を踏まえ「ビジネス環境がグローバル化する中で、日本企業も規則やルール作りだけでなく、運用面の実効性が問われている。企業の持続可能な成長戦略と一体で取り組んでほしい」と取り組みの進展を期待した。

■リリースはこちら
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/risk/articles/frs/jp-fraud-survey-2018-2020.html
(了)
リスク対策.com :峰田 慎二
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方