第11回 マンション管理組合のBCP(後編)

小山 和博
外食業、会計事務所勤務を経て、(株)インターリスク総研にて 2007 ~ 2017年の間、事業継続、危機管理、労働安全衛生、事故防止、組織文化に関するコンサルティングに従事。2017 年よりPwC総合研究所に参画し、引き続き同分野の調査研究、研修、コンサルティングを行っている。
2016/07/22
業種別BCPのあり方
小山 和博
外食業、会計事務所勤務を経て、(株)インターリスク総研にて 2007 ~ 2017年の間、事業継続、危機管理、労働安全衛生、事故防止、組織文化に関するコンサルティングに従事。2017 年よりPwC総合研究所に参画し、引き続き同分野の調査研究、研修、コンサルティングを行っている。
前回は、震災によるマンションの被災例を紹介したうえで、もともと運営基盤が強靭なものとは言い難いマンション管理組合にとっては、被災に備えた資金の確保が対応上重要であることを紹介した。
今回は、マンション管理組合にとっての緊急時の標準対応を紹介する。
編集部注:「リスク対策.com」本誌2014年9月25日号(Vol.44)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年7月22日)
マンション管理組合の標準的対応
緊急時におけるマンション管理組合の標準的な対応を考えた場合、対応するべき項目は時間の経過とともに移り変わっていく。過去の震災などの緊急時におけるマンションの被災例から、管理組合の標準的な対応の整理例を表1に示す。
発災直後にマンション管理組合が取るべき行動
まず、隣近所で声を掛け合って無事を確認し、必要に応じて避難できる経路を確保する。
避難といっても、一時避難場所や避難所に駆け込むことが最善策とは限らない。マンションの1階や集会場に避難し、1晩を過ごした事例もある。特に地震の場合は、本震のあとも余震が相次ぐため、マンションの各部屋(専有部分)で過ごすことに恐怖心を感じ、自主的に集合した事例も少なくないようである。
次に、マンション内で救護措置を必要とする住民がいないかを確認する。特にエレベータが設置されているマンションでは、エレベータ内の閉じ込めがないことを確認する必要がある。東日本大震災での記録によれば、ドアのゆがみなどによりドアが開かない状況になっている部屋については、いったんベランダなどから許可を得て中に入り、体当たりなどの手段でこじ開けるなどの対応も行われた。重症(傷)者がいれば病院に搬送する必要もでてくるだろう。
被害拡大防止措置も重要である。専門的な知識や道具を持ちあわせなくても実施できる措置は数多い。まず、水漏れ防止である。水栓が開いたまま取り付けられている洗濯機、十分に固定されていない電気給湯器などは直ちに必要な措置をとらないと、下層階に水漏れの被害を生じる。この被害例は過去の災害でも数多く見られており、住民相互の深刻な対立を招く。次に、下水の閉塞が生じていないかを確認する。下水道が使用できない場合に、各専有部分においてトイレにふろ水などを流すと、下水管のいずれかであふれることがある。これも深刻な被害を生じるため、下水管が閉塞していることが分かった場合は、トイレを使用しないように呼びかけなければならない。停電の場合は、念のため各専有部分のブレーカーを落とすことが重要である。電力供給が再開した途端、破損していた電気機器から発火した事例も少なくない。破損した電気機器はもちろんコンセントを抜く。これらの措置は、住民に知識がないことも多く、管理組合が住民に情報提供することが必要になる。 避難行動要支援者とは、「(災害時に)自ら避難することが困難な者であつて、その円滑かつ迅速な避難の確保を図るため特に支援を要するもの」(災害対策基本法49条の10)をいい、具体的には高齢により要介護の状態にある住民や障害を持つ住民などを指す。これらの住民は、自ら情報を収集して避難することができないため、住民同士で相互支援する必要性がより高くなる。
これらの行動をマンション管理会社が行ってくれると考えるのは、間違いのもとである。これらの行動は、住民が自ら取り組むべき事柄と整理した方がよい。多くのマンションでは管理員は日勤となっており、発災後は出勤できない可能性もあるからである。
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