発災当日にマンション管理組合が取るべき行動 
発災当日の時点でマンション内にいる区分所有者を中心に対策組織を組成する。多くのマンション管理組合のマニュアルでは、理事長を対策本部長とするなどと記載されていることが多いが、理事長が働き盛りの世代であることも多く、この場合、平日に発災した場合は機能しないマニュアルになる。区分所有者=居住者ではない比率が高いマンションでは、居住者を巻き込む形でマニュアルを作る必要が出てくるが、基本的には管理組合の意思決定には区分所有者以外が関与することはできず、一定のタイミングで区分所有者が業務を引き継ぐことになることに留意が必要である。

その後、建屋・設備の被害状況を確認する。これは、マンション内での生活が可能かどうかを判断するためである。とすると、確認するべきなのは、建屋そのものの安全性に影響が生じる基礎、梁、柱、耐力壁といった主要構造物の被害状況である。 

原則的には、火災の発生、建屋の主要構造部の損壊などの事象がないのであれば、可能な限りマンション内に留まることを念頭に置いた方がよい。プライバシーが保証された生活に慣れた現代人にとって、避難所における生活は非常に心労が多く、かえって体調を崩した事例も少なくないからである。避難所を自治会などで構成する地元の住民自治組織が運営することになっている自治体では、マンション住民とマンション周辺の住民との関係が悪かったため、避難所運営でもトラブルが発生した事例も見受けられる。 

避難するかどうかは、最終的には個々の世帯が判断することではあるが、発災当日に避難の判断に至った事例を確認すると、地震の場合は余震、水害などの場合は被害の拡大状況などから家に留まることに恐怖を覚えたために避難に至ったことが数多い。住民同士で声を掛け合うだけでも、恐怖をコントロールするきっかけになる。また、支援物資を確保したいという目的で避難所に行こうとする住民も多かったと聞くが、発災当日に避難所に届けられる支援物資は質量ともに乏しいものである。やはり公助に頼る前に自分で何とかできる範囲は何とかする自助を考えたい。

発災3日以内にマンション管理組合が取るべき行動
まず情報の収集である。といっても、発生した災害の規模や今後の見込みといった全般的な情報ではなく、住民の安否確認と自治体の対策状況に関する情報の収集が主なものとなる。発災時に在宅していなかった住民については、被害の有無を後日確認する必要がある。また、断水していれば、給水車の到着見込と予定時間は、住民にとって死活的な情報となる。 

東日本大震災において被害を受けた仙台市のマンションでは、炊き出しなどが行われた事例も少なくない(マンション管理支援ネットワークせんだい・みやぎ、2011年12月調査)。特にマンションの管理費の中から防災備蓄を準備している場合は、この備蓄をどのように取り扱うかは、事前に決めておいた方がよい。炊き出しといった形で消費するのか、それとも高齢者・子どもなどを中心に分配するのか、それによって、備蓄するべき物資の内容も変わってくる。 

この時期になってくると、ライフラインに影響が生じたマンションとそうではないマンションでは、生活のあり方が大きく変わってくる。影響がなかったマンションでは、通常に近い生活を営むことができると思われるが、影響が生じたマンションでは、日常通りの生活ができないことによるストレスが徐々に住民の判断にも影響を及ぼす。まず、日常の生活を安定したものにすることに集中するべきである。この問題に意識を向けさせるためにも、住民の中で役割分担を行い、当座取り組むべき作業を各自が割り振られる体制を作っておくことが無用のトラブル防止にも有効である。危険個所への立ち入り禁止措置やごみの取り扱いルール設定はその一例であるが、いったん設定したルールは守られるように周知する必要があるし、ごみの問題は、放置すると無責任な行動を助長する。

被災4日目以降にマンション管理組合が取るべき行動
通常の態勢に戻れるのであれば、対策組織は早期に収束し、管理会社に管理を引き継ぐことが重要である。もちろんこのことは、すべてを管理会社に委ねればよいということを意味するものではない。マンション管理組合の側でも、管理会社との間で修繕に関する検討を行う組織(復旧検討委員会など)を早期に立ち上げる必要がある。 

この後は、被害個所を特定し、取り急ぎの応急修繕措置を実施したうえで、修繕の見積もりを取り付け、現在の修繕積立金の状況を考慮しながら、どのような修繕計画を作成し、実行するかを検討し、住民同士の合意を形成していくプロセスになる。これは容易な作業ではなく、長期的に持続可能な体制で取り組む必要がある。可能であれば、マンション管理士、弁護士、税理士といった専門職種の支援を受けることを考えた方がよい。 

最終的には、資金と復旧のバランスを十分考慮したうえで、臨時総会に議案を上程し、今後の復旧方針を決定していく必要がある。これは、居住者である区分所有者と居住者ではない区分所有者(投資目的所有者)、住居としての区分所有者と店舗としての区分所有者など立場が複数になればなるほど、対応が困難になっていく。考える視点や方向性が異なるからである。 

また、行政による住家の被害認定や、保険会社による地震保険の支払い調査にあたっては、住民側でも建屋の被害状況を確認し、調査担当者にくまなく実情を理解してもらう必要がある。これらは、専有部分への立ち入りなども必要で、住民側に負担が大きい事情もあり、住民側の意思統一が図られないとなかなか対応が難しい。

事前の計画作成が重要
マンション所有者の多くは、これまで紹介してきたような取り組みの必要性については濃淡こそあれ認識しているものの、その内容の詳細を理解していることはほとんどない。区分所有法は、マンションの建て替えなどの重要事項の決定は、区分所有者の5分の4の同意を必要とすると定めていることを考えると、平時からこのようなテーマについても区分所有者の共通理解を醸成していく必要がある。そのためにも事前の計画づくりは非常に重要である。 

全区分所有者が参加する形で計画を作ることはできないから、まず計画検討委員会などを設置する。これはマンション標準管理規約55条に定められた理事会の諮問機関として位置付けるとよいだろう。計画の策定に当たっては、住民自身がマンションそのものとその管理体制を十分理解することから始める必要がある。建物や設備の調査は欠かせない。 

また、居住者の状況を把握するためには居住者へのアンケート調査も実施する必要がある。住民には、計画検討委員会における議論の状況についてまとめた広報誌を配布するとよい。くわえて、区分所有者が居住していないことが多いマンションでは、区分所有者にも広報誌を送付するなどのひと工夫が必要である。 

この過程においては、マンション管理組合が管理を委託しているマンション管理会社の役割も重要である。マンション管理会社自身の対策状況を確認したうえで、必要な支援を得るようにする。ただ、マンションにおける緊急事態、特に発災直後の対応は住民自身が取り組まなければならず、管理会社が果たせる役割は非常に限られたものでしかないことを十分認識しておくことが重要である。 

最後に、合意形成に当たって難航したマンションでは、結局修繕積立金の不足が災いした事例が多い。修繕積立金の考え方を管理会社任せにしておくことは危険であり、住民自身が意思決定していく必要性が高いことは強調しておきたい。

おわりに
一般社団法人マンションライフ継続支援協会という団体がある。この団体は、主に地震を想定して、都市防災の観点から、マンションの区分所有者や関連の事業者に対し、災害時、公的支援や避難所に依存せず、自宅内で自立的な対応をとる行動計画の策定を進めている。この団体では、この行動計画のことを、マンション生活継続計画(MLCP、Mansion Life Continuity Plan)と呼んでいる。 

企業においてもBCPの策定は珍しい取り組みではなくなってきている今日、分譲マンションという運命共同体を強いられる居住空間を選択した住民にとっては、このMLCPの考え方を参考にしながら、計画の策定に取り組んでいくことは非常に重要だと考える。計画そのものもさることながら、計画の策定過程において、マンションの持つ脆弱性や、緊急時における必要な対応を理解している住民が多ければ多いほど、修繕積立金や地震保険などの日頃の資金面での備えについても理解される可能性が高まる。

(注)この記事には、マンション管理組合の地震災害への対応に当たっての事象の1つとして、マンション管理組合と地震保険に関する記述が含まれています。筆者及び筆者が所属する株式会社インターリスク総研は、法令上地震保険への加入を勧誘する法的地位を有しておらず、これらの記述は地震保険への加入を勧誘する趣旨ではありません。地震保険に関する詳細は、損害保険代理店もしくは損害保険会社にご照会ください。

(了)