2019/03/01
危機管理の神髄
衝撃
8月29日 木曜日 午後4時4分 ニューヨーク市 8番街520 RPGスタジオ
4時を少し回ったところで、やるべき仕事はまだたくさんある。しかし仕事を続けるよりは、席の間仕切りの上から首をのばして、広いオフィスを見渡した先にある出口の方を見ることにする。そこに退社を急ぐ何人かの同僚の姿を目にすると、仕事をやる気はなくなる。もはや頭の中にあるのは家族のことだけである。しかし家にたどり着くまでにはあの耐え難い通勤がある。
ポートオーソリティ・バスターミナルを目指して8番街を競歩のように進むときにいつも頭をよぎる不安がある。4時37分のバスは同じニュージャージーへ帰る仲間の一団が押し寄せる前に発車する。2分でも遅れれば乗り過ごすのでバックパックをつかんでドアへ突進する。
半分ほど行ったところで、巨大で薄暗い部屋が光り輝くような白色となる。太陽を1000個集めたよりも明るい光が窓を突き破って差し込み、どんなに小さな隅や亀裂までも照らし出す。空気が燃えているように思われる。目を固く閉じるが光は、まぶたを通して血管をあぶりあがらせる。
同時に耳では長く低い轟音が爆発する。床が飛び上がって体を投げ倒す。体が床に当たるとき窓ガラスが破裂する。ガラスの破片がオフィスの床を舞い飛び、顔や頭や皮膚を小さな短剣のように切り裂く。天井が崩れ落ちる。
グラウンド・ゼロ
8月29日 木曜日 午後4時4分 ニューヨーク市 6番街の41丁目
ポラリスは6番街のバンクオブアメリカ・タワーの向かい側にあるブライアント公園のファウンテン・テラスに着弾した。その瞬間、鼻先に搭載された装置が原子を粉々に打ち砕いて、内殻のウラニウムの核の部分で一連の中性子を解き放つ。
核分裂と呼ばれるこのプロセスは、ばらばらになった原子によって放出される中性子が周辺の中性子と衝突することでさらなる核分裂を引き起こすので自続的なものである。その連鎖反応は、空へ、下界の雑踏へとあらゆる方向へ、光、圧力、電気、中性子、ガンマ放射線、アルファ粒子、電子の押しつぶすような波を発散する。
最初は放射線である。中性子、ガンマ放射線、アルファ粒子が光速で飛び交って、タクシーのサイドドアのアルミを溶かし、配送トラックのタイヤに点火し、素肌を焦げ茶色にする。公園の木の葉は雲散霧消し、ブロンズの銅像は溶解し、舗装されていない地面は激烈に加熱された塵となって吹き飛ばされる。
次は光である。ほんの瞬間、火の玉は砂漠の正午の太陽の1万倍も明るく光り、遠くはニューアーク、ニュージャージー、グリニッジ、コネチカットの人々の角膜を焼く。何十万台という数の自動車、トラック、バスが市内のいたるところで衝突するので交通は停止する。ニューアーク、ラガーディア、ケネディ空港へ向かう飛行機は墜落する。
800メートルのところにあるエンパイアステート・ビルでは、火の玉の光が34丁目のアスファルトを溶かし、その象徴であるテレビ塔のペイントを焼き焦がす。ビルの中ではカーテンやじゅうたんなどが炎上する。大理石の壁は割れてはじける。
同時に鋭く高圧スパイクの電気が電子の爆風を四方八方へ送りだす。この電磁波の振動はマンハッタンにあるすべての電子機器の集積回路を溶かしてしまう。電力網と通信システムは直ちに破壊される。
圧力は爆風の波となって押し寄せてくる。衝撃波と呼ばれるその先端はグラウンド・ゼロから猛烈な勢いで広がる。それは時速1200キロで進む極限まで圧縮された空気の壁であり、進路にある人・バス・建物はすべて粉砕される。周辺の建物と同様にニューヨーク市図書館もばらばらに破壊された。その入り口にある荘厳な石造りのライオンの像(「忍耐と不屈」と名付けられている)も嵐の中の木の葉のように空中に巻き上げられる。
最後だが重要なものとして、熱がある。ダイナマイトやTNT爆弾のような化学物質の爆発から生じる熱は数千度に達し、ガス状の火の玉を作り出す。核爆発によるプラズマの火の玉は数千万度にもなる。この温度では事実上あらゆる物が燃え、始めは個別の火災であったものが、風によって次第に統合されて一つの巨大な火災、つまり火炎の嵐となる。火炎の嵐は加熱された空気のかたまりを上昇させ、煙突効果により、冷たい空気を時速数百キロの速さで爆風のように取り込む。ホットドッグのカート、ごみ入れ、ペットまでボルトで止められていないものはすべて吸い込まれる。
火の玉は特徴のあるきのこ雲をつくり数千トンの放射性物質を数千キロも持ち上げる。これらの粒子が死の灰である。重いものは雨で落下し、軽いものは風で数万キロ、あるいは数十万キロも運ばれる。死の灰の降る地域では、数分のうちに致死量の放射線を浴びることになる。
ゴリアは地上に地獄をもたらすために、地球の半分を潜水航行してきたのだ。大都会の摩天楼は放射性物質のごみと化した。百万人が死亡した。数十万人がすぐに死ぬであろう。
(続く)
翻訳:杉野文俊
この連載について http://www.risktaisaku.com/articles/-/15300
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