第3回 危機状況をダッシュボード化する
秋月 雅史
1963年7月生まれ。1989年日本アイ・ビー・エム入社。IT業界で災害対策システム・無停止システムの構築、セキュリティ体制構築などの経験を積み、2011年から「想定外の起こらないBCP」を提唱。その概念を更に推し進めて、2013年からはCOPを活用した「危機管理の自動化」を提唱し、企業向けBCPコンサルティングを行っている。
2016/05/24
COP徹底解説~危機管理を自動化せよ!~
秋月 雅史
1963年7月生まれ。1989年日本アイ・ビー・エム入社。IT業界で災害対策システム・無停止システムの構築、セキュリティ体制構築などの経験を積み、2011年から「想定外の起こらないBCP」を提唱。その概念を更に推し進めて、2013年からはCOPを活用した「危機管理の自動化」を提唱し、企業向けBCPコンサルティングを行っている。
連載1回目では組織の情報要求について、2回目では、COP(Common Operational Picture)を使った情報収集∼情勢判断∼意思決定にいたるステップについて説明した。3回目の本稿では、COPをよりわかりやすく表現するために重要な、さまざまな事象をダッシュボード化する手法について説明する。これは複雑かつ重層する危機発生時の現実世界をモデリングする試みである。
編集部注:「リスク対策.com」本誌2015年7月25日号(Vol.50)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年5月24日)
ダッシュボード化のポイント
最初に結論を述べる。ダッシュボード化、つまり危機の際に起こるさまざまな事象をCOPとして表現するにあたって最も重要なポイントは、以下の3つである。
ダッシュボード化のポイント ①優先順位を付けて重要な情報を目立たせる ②状況が悪化していることを示すいき値を設ける ③情勢判断のために必要な情報を網羅する |
これについては、最初にランボルギーニ社の車のダッシュボードの例を示し、次に組織のダッシュボードの例を説明する(車におけるダッシュボードはCOPの事例であると私は考えている)。
ランボルギーニのダッシュボード
図1はランボルギーニ社アヴェンタドールのダッシュボードを図式化したものである。ご覧のようにいくつかメーターが装備されている。中央にある巨大なメーターは一見スピードメーターのように思われるが、よく見るとそうではないことに気づく。
実はこれはエンジンの回転数を表すタコメーターであり、スピードメーターはタコメーターの「9」の文字の下にある小さなディジタル表示窓である。
それでは、なぜこの車のタコメーターはこの大きさと配置になっているのであろうか?パッと見てスピードが何キロ出ているかがわからなければ、かなりドライブしにくそうだが、どのような考えに基づいてこのようなデザインになっているのであろうか?
このダッシュボード・デザインは、ランボルギーニ社の車に限らず、フェラーリやマクラーレンのような高パフォーマンスの車に共通した特徴である。以下は私見だが、これらの車を走らせる際にもっとも重要なポリシーは「マシンが持つ最高のパフォーマンスを引き出すこと」であって、「公道でのスピード制限を気にすること」はどうやら二の次らしい、というのが私の結論である。
今でこそ、これらの高パフォーマンス車にもセミオートマチック仕様が増えているようだが、これらの車の多くは、長い間レーシングカー同様にマニュアルシフトがほとんどだった。マニュアルシフトの車をなめらかに走行させるためには、ギアチェンジのタイミングを計ることが非常に重要である。そのために回転数を表すアナログのタコメーターが、中心の見やすい位置に大きく配置されているのである=ダッシュボード化のポイント①「優先順位を付けて重要な情報を目立たせる」
さらによく見てみると、回転数の表示文字のうち「8」と「9」が赤くなっており、「8千回転以上は回すな」といういき値を表している。これ以上アクセルを踏み込んで、エンジンが焼けてしまうことを防いでいる訳である=ダッシュボード化のポイント②「状況が悪化していることを示すいき値を設ける」 他にも赤い表示でドライバーの注意を促している項目が
ある。冷却水温度計、オイル温度計、燃料計などである。これらのメーターも上限と下限を表しており、特に車を安全かつ確実に走行させるために必要な情報については、ドライバーが俯瞰できてかつ問題があれば注意を引く仕組みになっている=ダッシュボード化のポイント③「情勢判断のために必要な情報を網羅する」
以上のように、これらがアヴェンタドールという高パフォーマンスの車をドライブするために必要なダッシュボード=COPの特徴である。
それでは、クライシスをドライブするためには、どのようなダッシュボード=COPが必要であろうか?
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