■「災害を忘れない」とはどういうことか

前回と今回を通じて、筆者は「災害のことを忘れたり、関心をなくしてしまってはまずいのではないか?」というメッセージを伝えてきたつもりである。では逆に、「災害のことを忘れない」「関心を持ち続ける」とはどのようなことを指すのだろうか。

実はこれはみなさんがどのような立場の人かによって意味合いが異なると思うのである。(1)自ら被災した人(2)避難所や仮設住宅などに通って直接被災者の痛みや苦しみを共有してきた人(3)復興事業などで俯瞰的な視点で被災地を見てきた人(4)自らは一度も大きな災害を経験したことのない人など。

ここでは、おそらく最も多いと思われる(4)の人々、そしてこれからBCPを策定したいと考えている人、あるいはすでに策定したBCPを見直したい人々を対象に述べてみたい。(4)の人々は「災害」という言葉からどんな状況を連想するだろう。多くの人はニュースや動画投稿サイトで見た悪夢のような状況-建物が倒壊し、焼け落ち、徹底的に破壊し尽くされた街の様子、そしてこの世の終わりのような大規模な洪水や大津波が街を飲み込む様子、あるいは、茫然自失で避難所に駆け込んできた多くの住民たちの悲痛な叫び-などを思い起こすのではないだろうか。

■自問自答してリスク意識を呼び覚まそう

しかしこうしたディザスター映画のようなイメージを「忘れない」ように記憶や心の中に留めようとすれば、どうしても気は重くなり、無力感におそわれ、むしろ早く忘れてしまいたいという意識が先行する。そこで、いったんこれらのイメージは心の奥底にしまい込み、より身近な「災害リスクの感知」にフォーカスしてみてはどうだろう。災害がもたらす状況や光景ではなく、災害につながるかもしれない不穏な空気を察する感覚を養うということである。これもまた「災害を忘れない」ためのアプローチと呼んでもおかしくはない。

例として、今あなたはどこかの会社の「喫煙コーナー」の前にいるとしよう。2脚の折り畳み椅子の前には水を張った空き缶が置いてある。壁には「最後の人は火の後始末を」「火災に注意」といった貼り紙もある。しかし椅子のすぐ後ろには、喫煙場所を取り囲むように廃棄書類や段ボールが粗雑に積まれている。この様子を見てなんとなく心穏やかならざる空気を感じ取ったら、あなたの意識は健全である、つまり災害リスクに対する警戒感が働いているとみてよい。逆に、もし何も違和感を覚えなかったら、指さし確認しながら「ここにリスクはないか?」と声に出して自問自答してみよう。この反復(習慣付け)がリスク意識を高めてくれるだろう。

(了)