2019/03/20
昆正和のBCP研究室
■「災害を忘れない」とはどういうことか
前回と今回を通じて、筆者は「災害のことを忘れたり、関心をなくしてしまってはまずいのではないか?」というメッセージを伝えてきたつもりである。では逆に、「災害のことを忘れない」「関心を持ち続ける」とはどのようなことを指すのだろうか。
実はこれはみなさんがどのような立場の人かによって意味合いが異なると思うのである。(1)自ら被災した人(2)避難所や仮設住宅などに通って直接被災者の痛みや苦しみを共有してきた人(3)復興事業などで俯瞰的な視点で被災地を見てきた人(4)自らは一度も大きな災害を経験したことのない人など。
ここでは、おそらく最も多いと思われる(4)の人々、そしてこれからBCPを策定したいと考えている人、あるいはすでに策定したBCPを見直したい人々を対象に述べてみたい。(4)の人々は「災害」という言葉からどんな状況を連想するだろう。多くの人はニュースや動画投稿サイトで見た悪夢のような状況-建物が倒壊し、焼け落ち、徹底的に破壊し尽くされた街の様子、そしてこの世の終わりのような大規模な洪水や大津波が街を飲み込む様子、あるいは、茫然自失で避難所に駆け込んできた多くの住民たちの悲痛な叫び-などを思い起こすのではないだろうか。
■自問自答してリスク意識を呼び覚まそう
しかしこうしたディザスター映画のようなイメージを「忘れない」ように記憶や心の中に留めようとすれば、どうしても気は重くなり、無力感におそわれ、むしろ早く忘れてしまいたいという意識が先行する。そこで、いったんこれらのイメージは心の奥底にしまい込み、より身近な「災害リスクの感知」にフォーカスしてみてはどうだろう。災害がもたらす状況や光景ではなく、災害につながるかもしれない不穏な空気を察する感覚を養うということである。これもまた「災害を忘れない」ためのアプローチと呼んでもおかしくはない。
例として、今あなたはどこかの会社の「喫煙コーナー」の前にいるとしよう。2脚の折り畳み椅子の前には水を張った空き缶が置いてある。壁には「最後の人は火の後始末を」「火災に注意」といった貼り紙もある。しかし椅子のすぐ後ろには、喫煙場所を取り囲むように廃棄書類や段ボールが粗雑に積まれている。この様子を見てなんとなく心穏やかならざる空気を感じ取ったら、あなたの意識は健全である、つまり災害リスクに対する警戒感が働いているとみてよい。逆に、もし何も違和感を覚えなかったら、指さし確認しながら「ここにリスクはないか?」と声に出して自問自答してみよう。この反復(習慣付け)がリスク意識を高めてくれるだろう。
(了)
昆正和のBCP研究室の他の記事
おすすめ記事
-
-
サイバーインシデント対応の基本知識と準備
本勉強会では、一般的な情報セキュリティインシデントとサイバーインシデントの違いや、その初動対応について事前に準備すべきことと合わせて、自社で手軽に訓練・演習を実施するためのポイントを解説します。2024年5月8日開催。
2024/05/09
-
-
炎上の原因はSNS上の振る舞いのみにあらず
新年度から仲間に加わった新入社員は「デジタルネイティブ」と呼ばれ、友人とSNS で交流するのがあたり前の世代です。が、学生時代と違い、社会人になれば取り巻く環境が変わり、自身の立場も変わる。うかつな投稿が「炎上」につながるケースは少なくありません。新人研修のテーマにSNSリスクを組み込むなどして教育を徹底したいところです。
2024/05/08
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年5月7日配信アーカイブ】
【5月7日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:令和5年度企業の事業継続及び防災に関する実態調査
2024/05/07
-
-
-
家庭の防災は企業BCPとつながっている
昨今は社員の自主防災力向上に努めている企業も多いでしょう。この時期は災害時のルール周知に余念がないと思いますが、ポイントとして提案したいのが、家庭の防災と企業BCP のつながりをしっかり伝えること。「家庭と会社は別」と考えがちですが、家庭の防災力を上げないと企業の事業継続力も上がりません。メッセージを出すよいタイミングです。
2024/05/02
-
-
企業不正の実態と不正防止対策
本勉強会では、企業不正の実態と不正防止対策について解説していただきました。2024年4月23日開催。
2024/05/01
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方