2016/05/24
誌面情報 vol55

熊本地震は、地震予知の難しさと、日本全国どこにいても地震に遭遇する可能性があることを改めて国民に知らしめた。
それでは、政府の地震調査研究推進本部(地震本部)が発表した全国地震動予測地図はどこまで信用できるのか、どのように活用して備えていけばいいのか?
東京大学地震研究所 地震予知研究センター長・教授の平田直氏に聞いた。
編集部注:「リスク対策.com」本誌2016年5月25日号(Vol.55)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年7月28日)
Q1.
熊本地震は発生確率から見て予想できた地震だったのでしょうか?
一般の方が、マスメディアのインタビューに対し「九州には地震が来ないと思っていた」と答えていたのが象徴的です。21年前、阪神・淡路大震災が発生した当時を繰り返しているように聞こえました。一般的な体験感覚としてしか地震のリスクを考えていなかった。残念ながら、自治体も地震対策が進んでいなかったのは事実です。
地質や地形のデータを見ると、熊本には過去に大きな地震が起きた証拠がはっきりとあります。地震調査研究推進本部(地震本部)が出した「活断層の長期評価」では、地震の起きた布田川断層帯で、今後30年間にM(マグニチュード)7程度の地震が起こる確率はほぼ0から0.9%でした。この数値は日本に約100ある主な活断層の中では「やや高い」に分類されます。「活断層の長期評価」は日本にある約2000の活断層から、M7以上の地震を起こしうる危険性の高い断層を約100選んで評価しているものです。
Q2.
「ほぼ0から0.9%」はかなり低い確率だと考えてしまいます。
この数値を低いと思われるかもしれませんが、数百年や数千年前に起きた地震を過去にさかのぼって調べ、過去に起きた地震が将来にも同様に起こると仮定して確率を出すと、このような数値になります。わかりやすく言いかえれば発生確率は過去に各断層で起こった地震の「頻度」となります。ただし、人間が地震計で地震の観測を始めてまだ100年ほど。古文書などの文献も利用しますが調べられるのはせいぜい過去2000年です。その先は地質学や地形学的な手法で調査します。しかも、古ければ古いほど誤差は大きくなります。
ただし、M7以上の大きな地震が過去と同じ場所で起こるのは非常にまれで、数千年に1回という時間スケールです。それを30年に限定するので、M7以上の地震の起こる確率は「やや高い」といってもこの数値になります。今回、地震の起きた布田川断層帯では約8100年~26000年間隔で地震が発生し、最も近く活動していた時期は約2200~6900年前だと推定されています。これが地球科学的な地震のスケールです。
誌面情報 vol55の他の記事
おすすめ記事
-
白山のBCPが企業成長を導く
2024年1月1日に発生した能登半島地震で震度7を観測した石川県志賀町にある株式会社白山の石川工場は、深刻な被害を受けながらも、3カ月で完全復旧を実現した。迅速な対応を支えたのは、人を中心に据える「ヒト・セントリック経営」と、現場に委ねられた判断力、そして、地元建設会社との信頼関係の積み重ねだった。同社は現在、埼玉に新たな工場を建設するなどBCPと経営効率化のさらなる一体化に取り組みはじめている。
2025/08/11
-
三協立山が挑む 競争力を固守するためのBCP
2024年元日に発生した能登半島地震で被災した三協立山株式会社。同社は富山県内に多数の生産拠点を集中させる一方、販売網は全国に広がっており、製品の供給遅れは取引先との信頼関係に影響しかねない構造にあった。震災の経験を通じて、同社では、復旧のスピードと、技術者の必要性を認識。現在、被災時の目標復旧時間の目安を1カ月と設定するとともに、取引先が被災しても、即座に必要な技術者を派遣できる体制づくりを進めている。
2025/08/11
-
アイシン軽金属が能登半島地震で得た教訓と、グループ全体への実装プロセス
2024年1月1日に発生した能登半島地震で、震度5強の揺れに見舞われた自動車用アルミ部品メーカー・アイシン軽金属(富山県射水市)。同社は、大手自動車部品メーカーである「アイシングループ」の一員として、これまでグループ全体で培ってきた震災経験と教訓を災害対策に生かし、防災・事業継続の両面で体制強化を進めてきた。能登半島地震の被災を経て、現在、同社はどのような新たな取り組みを展開しているのか――。
2025/08/11
-
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/08/05
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/08/05
-
-
カムチャツカ半島と千島海溝地震との関連は?
7月30日にカムチャツカ半島沖で発生した巨大地震は、千島からカムチャツカ半島に伸びる千島海溝の北端域を破壊し、ロシアで最大4 メートル級の津波を生じさせた。同海域では7月20日にもマグニチュード7.4の地震が起きており、短期的に活動が活発化していたと考えられる。東大地震研究所の加藤尚之教授によれば、今回の震源域の歪みはほぼ解放されたため「同じ場所でさらに大きな地震が起きる可能性は低い」が「隣接した地域(未破壊域)では巨大地震の可能性が残る」とする。
2025/08/01
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方