2016/05/24
誌面情報 vol55
Q3.
0から0.9%という確率がある一方で、九州中部地域で今後30年以内にM6.8以上の地震が起こる確率は18~21%との評価もあります。この違いはどこにあるのでしょうか?
数値だけでみれば布田川断層帯で30年以内にM7以上の地震の起こる確率ほぼ0から0.9%でしたが、2013年に別の方法で計算して公表した「活断層の地域評価」では、地震の起きた布田川断層帯・日奈久断層帯を含む九州中部地域で、今後30年以内にM6.8以上の地震が起こる確率は18~21%と評価しています。M7以上の地震を想定した活断層帯を個別に評価してきた従来の方法との違いは、現在発生している中小の地震にも調査対象を広げ、M6.8以上の地震の発生する可能性を、個別の断層ではなく広いエリアで評価しています。この評価方法のもととなったのがグーテンベルグ・リヒターの法則です。簡単に説明すると、ある地域に起こる地震の回数には、小さな地震と大きな地震との間に一定の関係があり、小さな地震が多ければ、大きな地震も多くなるという法則です。マグニチュードが1小さくなれば、地震の数は10倍になります。
この法則を用いて、現在発生している中小の地震数を数え、M6.8以上の地震の起きる頻度を予測したのです。過去に地震がたくさん起きているところでは、将来も地震が起きるという極めてナイーブな仮説がもとになっています。大きな地震は稀にしか発生しないので、たくさん発生している中小の地震を調べ、そこから大きな地震の発生を予測しているのです。現状では、それ以外の科学的に合理的な方法は考えられません。
地上への影響がほとんどないM6.5以下の地震は地下でたくさん起きています。それらの地震を、過去100年ほどさかのぼって調べ出した確率が18~21%です。現在発表されている「活断層の地域評価」は九州と関東のみです。関東の地域評価のうち、東京都の大部分と千葉県、埼玉県を含む「区域3」ではM6.8以上の地震が30年以内に発生する確率は1~3%です。それと比べると九州中部は、今後30年間にM6.8以上の地震起こる確率が高い地域だったと言えるわけです。

Q4.
地震の発生確率をどのように考えていけばいいのでしょう? 全国地震動予測地図の「確率論的地震動予測地図」を見ると、確率が高い真っ赤な地域以外で近年、地震が起きています。
黄色から濃い紫色で確率が示された全国地震動予測地図の確率論的地震動予測地図は、特定の場所で同じエネルギーの地震が起きたときに地表でどれくらい増幅されるか調査し、地震の発生確率と組みあわせたものです。約250㎡のメッシュで構成されている確率論的地震動予測地図には2つの特徴があります。1つは地震が多く起きている「頻度」の高い地域の確率は当然高くなるということです。これは先ほどにも説明したように過去に起きた地震をもとに確率を計算しているからです。
もう1つは地盤の固さが反映されている点です。地盤の性質は揺れに大きく影響します。極端にいえば地盤が軟らかいところは、地震がどこで起きても強く揺れます。地盤には大きく分けると火山のマグマが固まってできた火成岩と泥が固まってできた堆積岩があります。この2つの固さの違いが揺れの違いを生み出します。確率論的地震動予測地図をズームアップしてみると同じ地域でも、もともと流れていた河川を埋め立てたところや、川を付け替えたところなどは周辺より色が濃くなっています。地盤の影響でより強く揺れるわけです。ですから熊本も細かくみると、地域で色がはっきり違うのがわかると思います。関東が濃い紫色なのはこの100年間でM7クラスの地震が5回起きたことと、揺れやすい地盤であるからです。
確率論的地震動予測地図は東北地方太平洋沖地震の後に批判されました。2010年版の地図でも色の濃いエリアは主に南海トラフの影響を受ける地域と首都圏でした。南海トラフ地震も首都直下地震も起きていないのに、なぜ、東北地方太平洋沖地震が起きたのかという指摘です。しかし、この地図の色分けは、色の濃い地域から順番に地震が起こることを示していません。黄色でも地震は起きているから、より濃い色は確実に起きると思っていたほうがいいわけです。 過去に起きた地震が、将来にも起こるという科学的に合理的な前提が崩れなければ、例えば千年後の未来から見ると21世紀にはこの地図のように地震が起きていたとなるはずです。
Q5.
日本なら地震はどこでも起こるといわれます。確率論的地震動予測地図の必要性はどこにあるのでしょう?
この地図は科学的なエビデンスに基づいて作成されたものです。日本中どこでも地震は起きやすいと言いますが、その差は確実にあります。確率論的地震動予測地図は、立場によって使い分けるといいと思います。
例えば、国の立場なら地図を参考に、優先して地震対策をすべき地域がわかります。地方自治体なら確率が高い地域にある庁舎から耐震補強を始めることもできます。一般の人で住宅の購入を考えているならより安全な場所が選べます。もし、住んでいるところからの引っ越しが難しいなら家具の固定や地震保険への加入など対策はいろいろあります。確率論的地震動予測地図を見ればわかるように、30年の期間なら100%確実に地震が起こるとは言えません。確率の値は小さくも見えるでしょう。兵庫県南部地震と東北地方太平洋沖地震の両方を経験された方もいらっしゃいますが、運のいい人はどちらも経験していません。人間が大きな地震を経験するのは、一生に1回です。地震リスクにどう備えるか、自分の生活プランの組み立てにこの地図が参考になると思います。
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