2019/06/18
本気で実践する災害食
炊き出しを実際にやって感じたこと
私は炊き出し前日、大和重工の社員6名と600食分の買い物をし、ワゴン車で東京へ行きました。そして都内で1泊をして、翌早朝現地へ向かいました。
避難所生活者は減少していたので、炊き出しの対象は在宅被災者です。屋内はまだ浸水した水が引いただけでヘドロがやっと乾いた状態。まず生涯学習センターの駐車場で昼食を300食作り、終わったらすぐ場所を移動して諏訪神社の境内で夕食を300食作りました。大釜(10升炊き)2つ、炊飯釜(5升炊き)2つ、調理器具……。ペットボトルの水で米を洗い、煮炊きをしました。現地で他社の社員らが加わり計10人でプロの仕事ぶりを発揮しました。
驚いたことに、献立と出来上がり時間を書いたチラシがボランティアセンターの事務局からすでに地域住民に配られていました。そのため、住民は待ちかねるように足早にテントにやってきました。さらに驚いたのは、人々が手に大きめの鍋を抱えてやってきたことです。5人前ください。お隣のおじいちゃんの分もくださいなどと言いながら、300人の混ぜご飯、野菜たっぷりスープ、ミカンの3点セットはあっという間になくなりました。テント近くで食べる人は全くおらず、皆家に持ち帰りました。
住民とお話することを楽しみにしていた私は、逆にひどくガッカリ。「あーあ、行っちゃった!」。でも、住人の一人に「このようなボランティアの炊き出しは、これまでもありましたか?」と尋ねると、「あー、これまで4回ぐらいかな」と話してくれました。その時点で在宅被災者は6000人を下らないのではないかということで、ボランティアの活動がいかに重要だったかが分かります。
なぜ炊き出しが必要だったか
それにしても、鍋を抱えた住民があまりにも熱心にやってきたのが不思議でなりません。本当に食べ物に困っていたのが手に取るように分かりました。ライフラインが回復しているのに、なぜ炊き出しを心待ちにしているのかと。
それには訳がありました。1階はドロドロで家財道具は全てダメ。壁の中の断熱材はビショビショで素人には引っ張り出せない。内壁を張ることもできない。困ったことに肝心の大工もいない。いつまでたっても台所が使えないのです。大型店舗へ買い物に行くにも、車の多くが水に浸かったため、使い物になりません。ライフラインが回復したらすぐ料理ができるという考えは通用しないことが分かりました。
援助する側と受ける側の「本気のぶつかり合い」
冒頭で「仲人」といったのは、常総市で支援活動を展開しているNPOのネットワーク「常総市水害対応NPO連絡会議」(呼び掛け人:茨城NPOセンター・コモンズ、代表理事:横田能洋氏、10月8日現在、63団体が参加)です。
水害という災害は、地震とは違う側面があります。避難所が浸水し使えない。避難所は、自宅から遠く離れた場所に設定されるので行きにくい。被災者は自宅で生活し、孤立してバラバラになる。
その点常総市では、仲人が地域住民とネットワークを作り、皆の結束を高めたことで、私たち炊き出し隊は、2つの地域で助援活動ができました。それぞれの地域が300人単位でまとめられていたため、効率良く食事が行き渡り、皆に喜んで食べていただけました。
地域が「1つにまとまる」ということはとても難しいことです。日頃からまとまっていなければなりません。災害が起こってからでは遅いのです。
援助を受ける側が本気を出せば、援助する側も本気が出ます。
本気と本気のぶつかり合いです。本気が本気を呼び込む。このリーダーの才能と足並みをそろえて頑張った地域の住民の本気を心からたたえたいと思います。
(了)
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月16日配信アーカイブ】
【4月16日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:熊本地震におけるBCP
2024/04/16
-
調達先の分散化で製造停止を回避
2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。オフィス家具を製造するホリグチは真備町内でも高台に立地するため、工場と事務所は無事だった。しかし通信と物流がストップ。事業を続けるため工夫を重ねた。その後、被災経験から保険を見直し、調達先も分散化。おかげで2023年5月には調達先で事故が起き仕入れがストップするも、代替先からの仕入れで解決した。
2024/04/16
-
工場が吹き飛ぶ爆発被害からの再起動
2018年の西日本豪雨で隣接するアルミ工場が爆発し、施設の一部が吹き飛ぶなど壊滅的な被害を受けた川上鉄工所。新たな設備の調達に苦労するも、8カ月後に工場の再稼働を果たす。その後、BCPの策定に取り組んだ。事業継続で最大の障害は金属の加温設備。浸水したら工場はストップする。同社は対策に動き出している。
2024/04/15
-
動きやすい対策本部のディテールを随所に
1971年にから、、50年以上にわたり首都圏の流通を支えてきた東京流通センター。物流の要としての機能だけではなく、オフィスビルやイベントホールも備える。2017年、2023年には免震装置を導入した最新の物流ビルを竣工。同社は防災対策だけではなく、BCMにも力を入れている。
2024/04/12
-
民間企業の強みを発揮し3日でアプリ開発
1月7日、SAPジャパンに能登半島地震の災害支援の依頼が届いた。石川県庁が避難所の状況を把握するため、最前線で活動していた自衛隊やDMAT(災害派遣医療チーム)の持つ避難所データを統合する依頼だった。状況が切迫するなか、同社は3日でアプリケーションを開発した。
2024/04/11
-
-
組織ごとにバラバラなフォーマットを統一
1月3日、サイボウズの災害支援チームリーダーである柴田哲史氏のもとに、内閣府特命担当の自見英子大臣から連絡が入った。能登半島地震で被害を受けた石川県庁へのIT支援要請だった。同社は自衛隊が集めた孤立集落や避難所の情報を集約・整理し、効率的な物資輸送をサポートするシステムを提供。避難者を支援する介護支援者の管理にも力を貸した。
2024/04/10
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月9日配信アーカイブ】
【4月9日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:安全配慮義務
2024/04/09
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方