シェークスピア墓碑(イギリス、ストラット・アポン・エーボン)

にじみ出る作者の価値観

この不朽の名作には作者の人生観を反映したと思われるセリフも少なくない。宰相ポローニアスは息子レアーティーズをパリ留学に送りだす際に忠告する。

「腹に思うても、口には出さぬこと。突飛な考えは実行に移さぬこと。つき合いは親しんでも狎(な)れず。それが何より。が、こいつはと思った友達は、鎖で縛りつけても離すな。というて、まだ口ばしの黄色い、羽もはえそろわずようなお調子者と、やたらに手を握って、手のひらのまめをこしらえるではないぞ。喧嘩口論にまきこまれぬよう用心せねばならぬが、万一まきこまれたら、その時は目にものを見せてやれ。相手が、こいつは手強(てごわ)い、用心せねばならぬと懲りるほどにな。どんな人の話も聞いてやれ。だが、おのれのことをむやみに話すではない。他人の意見には耳を貸し、自分の判断はさしひかえること。それからと、財布の許すかぎり、身の回りには金をかけるがいい。といって、けばけばしく飾り立ててはいかん。凝るのはいいが、華美は禁物。たいてい着るもので人柄がわかるものだからな。金は借りてもいけず、貸してもいけずと。貸せば、金を失い、あわせて友をも失う。借りれば、倹約がばからしゅうなるというもの。ところで、一番大事なことは、己に忠実なれ、この一事を守れば、あとは夜が日に続くがごとく、万事自然に流れだし、他人に対しても、いやでも忠実にならざるを得なくなる」。(第1幕第3場) 

この長く、ややくどいセリフを読むたびに、私は文豪の「処世術」「金銭感覚」を思って苦笑する。読者諸氏が、シェークスピア作品に接する機会に恵まれることを期待したい。

参考文献:「シェークスピア講演」(福原麟太郎)、「シェークスピアの人生観」(ピーター・ミルワード)など多数。

(つづく)