□事例:攻めのリスクマネジメントを考える

一部上場企業である製造業A社のリスク担当部署に、Bさんはこの4月に着任しました。

A社ではこれまでリスク担当部署が中心となり、内部統制やコンプライアンス体制の整備、BCP(事業継続計画)の策定などを行ってきました。

近年A社では、社長が「攻めのリスクマネジメント」ということを言っています。というのも、東京証券取引所が規定した「コーポレートガバナンスコード」によって、上場企業の取締役会などの責務として「経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと」が決められたため、社長が口にするようになったということでした。コーポレートガバナンスコードは、持続的成長と中長期的な企業価値の向上のための自律的な向上を行うことを企図して策定され、各企業は、中長期的・継続的にコーポレートガバナンスの改善および最適化を図らなければならないとされているものです。

Bさんは「利益を上げて成長するためには、一定のリスクをテイクしなければならない一方、そのテイクしたリスクを適切に管理しなければ予期せぬ損失を招き、企業価値が毀損してしまうから、そのためにリスクマネジメントをしっかり行う必要がある」ということは理解していますが、実際にどうしていいかいまひとつ分かりません。

そんな時、部署の先輩から「これを読んで勉強しておくように」と渡されたのが「グローバルリスク報告書」でした。Bさんはその中のあるページに目が釘付けになりました。それは「グローバルリスクの展望の変遷」というページで、そこには「発生の可能性が高いグローバルリスクの上位5位」と「影響が大きいグローバルリスクの上位5位」が過去10年分並べられて記載されていました。その中の「発生確率が高いリスク」2011年~2013年に予測されていたものが、近年世界的に問題となっているように思えたのです(図1)。

写真を拡大 【図1 発生の可能性が高いグローバルリスクの上位5位:グローバルリスク報告書2019年版】

 

ちなみに、2018年と2019年では以下のようになっています(図2)

写真を拡大 【図2 発生の可能性が高いグローバルリスクの上位5位:グローバルリスク報告書2019年版】

Bさんは、「ここにあるリスクに対して何らかのマネジメントを行うことが、わが社のリスクテイクの判断につながるのではないか?」と思っています。