2016/07/21
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』
大雪の日、車中泊とテント泊どっちを選ぶ?
ここで、いつも講演で行っている質問をしましょう。
「あなたは車に乗っていました。雪がだんだんひどくなってこのまま行くと動けなくなりそうです。排気口まで雪に埋まると一酸化炭素中毒になり死亡しますから車のエンジンは切らなければいけません。ふと車内をみると、テントがあります。さて、あなたはテントで寝ますか?車で寝ますか?」
テントの話題での問題だから、テントが答えだろ・・と推測した方、きっとマークシートテスト得意ですね(笑)。確かに、そうなんですが、テントでも車で寝るにしても、ひとつ絶対に判断しなければいけない事があります。それはなんだか分かりますか?
これは、マークシートが得意なだけでは解けませんよ。(なぜか予備校講師っぽくなっている私・・)
答えは、断熱!
ちらっとでも脳裏をかすめましたか?車かテントか2択するより前に、これを考えていただきたいのです。
車中泊がなぜ寒くなるのか、それは、車が熱しやすく冷めやすい鉄やガラスでできているからです。外が寒いと、熱の伝わり方、伝導、対流、放射(輻射)のうちの伝導によって、外の冷気が伝わってきてしまうのです。
だから、車中泊をする場合には、ガラス窓には、断熱素材をはりつけて、床も断熱で対策をとると、車内で眠ることも可能になります。窓につける銀色のサンシェード。あれも断熱素材なので、冬にも活躍します。断熱なしに車の中でシュラフにくるまっても寒いです。
テントの場合はどうかというと、ガラスや鉄よりも伝導によって冷気を伝えません。そのため、下からの冷気を断熱マット(テント内に敷く)で遮るだけで、テントの中に動かない空気の層を作り出せます。だから雪山で機能するのです。
この動かない空気の層、これが最もすぐれた断熱材なのです。建築用の断熱材もこの動かない空気の層を利用して作られています。2重窓がガラスでも暖かさを保つのは、2つのガラスの間に空気の層を閉じ込めるからです。
常温常圧(20℃、1気圧)では、空気の熱伝導率は、0.0000565で0がいっぱい!いちいち数字を覚えるのも大変なので、熱伝導率は 『気体<液体<固体』と覚えておくと、溺れたら冷えるなあとか、車で寝たらガラスや鉄が固体だから寒くなるとイメージしていただけるのではないかと思います。車で寝たほうが暖かいと勘違いしている人は結構いるのですが、熱伝導のことがイメージできていないと対策もとれなくなってしまいますよ!
そして、この断熱の知恵があれば、テント泊や車中泊が楽になるだけでなく、寒い時期での避難所対策がわかります。
体育館などは、床からの冷気がひどいので、断熱材が必要になります。毛布を何枚敷いても寒いのはあたりまえです。断熱材じゃないから。段ボールを敷いたり、柔道マットを敷いたりすると暖かくなるのは断熱材だから。
段ボールを箱型にしてベットのように並べて寝ると快適なのは、段ボールの中に動かない空気という断熱材をさらに入れていることになるから。エアパッキン、ぷちぷちの商品名で販売されている、空気緩衝材、あれも動かない空気そのものだから、断熱材です。

避難所で、段ボールを箱にして敷くと暖かいと知っているだけでは、段ボール以外は使えない人になります。アウトドアスキルがあれば、探すのは、断熱材です。断熱素材や、動かない空気層を作ると断熱できるとわかれば、その場にあるもので作り出せる人になれます。例えば、カバンに足をつっこむのは、空気層に入るってことです。
・・・という具合に寒さ対策の断熱がわかれば、夏、テントで快適にすごすためには、その反対を実践すればいいことがわかります。空気をためないことが重要ってことですね!メッシュの風通しのよい素材であれば、虫も入らないし、風を通すので、空気をためません。
車で寝る場合は、春先でも窓を締め切った車内は5分で50度になると言われています。熱伝導率がよすぎますね・・。
だから、車で寝る場合の暑さ対策は、とにかくドアや窓をあけること、ちょっとでも涼しい場所に移動することです。災害の後、近づけるかは、別の判断が必要になるものの、川などの水辺は気化熱によって気温が低く、風が発生していますし、標高が100m高くなれば、0.6度気温が下がるので、高台に行くことで暑さ対策が可能です。もちろん場所を選ぶ知恵はテントの夏対策にも使えます。
こんな風に断熱性と通気性を考えると、体育館って本当に、災害にむいてないなあと思ってしまいますけど・・(涙)。
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』の他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方