2度の被災でコールセンター停止

そんな巨大施設が、震度7を記録した2度の地震により被災した。4月14日の震度7(M6.5)の前震では、敷地内の地割れ、室内のガラス割れ、コンテナの転倒などの被害が出た。大きな被害ではなかったが、当時、業務を終え帰宅途中だった再春館製薬所執行役員経営企画室長の大庭博人氏は「前震は大した揺れではなかったというようなことが言われますが、ここ(震源地)は十分以上に揺れています」と振り返る。

コールセンター業務は午後10時までやっているため、まだ数十人の社員が働いていた。現場にいた管理職の判断でコールセンター業務は打ち切り、その日は全社員を帰宅させた。

午後10時7分には震度6弱、10時38分には震度5弱、11時43分には震度4、そして翌日午前0時3分には再び震度6強、1時53分には震度5弱と大きな余震が繰り返された。

「誰も、ほとんど寝ることができなかったのではないでしょうか」と大庭氏は話す。

15日の午前中の段階では全社員の安否まで把握ができなかったが、多くの社員が出社した。

コールセンター業務は朝から再開させたが、余震が多いことから昼の12時で閉鎖し、自動応答システムに切り替えた。無事に1日目の作業を終え、わずかながら落ち着きを取り戻そうとしたさなか、翌16日の午前1時25分、前震をさらに上回る揺れが益城町を襲った。

大庭氏は「熊本中を探しても飛び起きなかった人はいないでしょう」と揺れの大きさを表現する。しかも停電で真っ暗な中で恐怖は増幅したという。

「皆生きることだけで必死だったと思います。家に居られない人は何とか避難所まで行ったでしょうし、避難所まで行けず車の中で過ごした方も多かったことでしょう」(大庭氏)

夜が明けて、会社に来たのは社長と10人程度の社員だった。土曜日で休日ではあったが、社長、経営幹部に加え、会社のことが心配という人や、家にいることができない人もいた。

前日、片付けを行っていた本社コールセンターは、再び机上から物が落ち散乱。天井のフックが外れ落下寸前の状態になっていた。さらに、システムの要であるサーバーは免振台が備え付けられていたにもかかわらず免震構造部分が降り切れて倒壊。奇跡的にシステム停止には至らなかったが簡単に中に立ち入れる状況にはなかった。

社員の安全を最優先に考え、西川社長の判断で、この日から営業を当面休止することにした。

幸いだったのは、ライフラインが生きていたことだ。周辺地域は、電気と、特に水が長期間大きな影響を受けたが、同社は井戸水を使い、コールセンター業務を維持するため数日分の電力を賄える非常用発電機を備えていたことから施設機能は維持することができた。

写真を拡大  本震後の社内の状況。机は散乱し、天井が崩落しかけ、サーバーは免振構造部が振り切れて倒壊した(写真提供:再春館製薬所)