2016/07/25
誌面情報 vol56
7割の社員が避難所・車中泊
翌日15日、富士フイルム九州では、完全復旧に向け、清掃作業や点検を行い、再び、2交代のシフト性に戻し、準備を進めた。そしてその夜(16日未明)、前震とは比べものにならない大きな揺れが工場を襲った。
市内全域が停電。工場内も非常灯だけで、暗闇に包まれた。ラインを止めていたことが不幸中の幸いで、溶液が流れ出すなどの被害はなく、勤務していた社員は、再び災害対策本部前の避難場所に集まった。避難従業員数は52人、そして災害対策本部要員15人が駆けつけた。自宅が被災し駆けつけられないスタッフもいた。
災害対策本部では、施設の電源を賄う備え付けの大型非常用発電機と、運搬可能な中型発電機2基がある。すべてを稼働し、工事用などに使うバルーン投光器で避難場所を明るく照らした。同時に大型のテレビを設置し、避難した従業員にもテレビで情報が提供できるようにした。

安否確認は夜中にもかかわらず3時間で終えた。自分や家族が負傷しているという連絡はなかったが、自宅が半壊しているという回答は多かった。「本当に負傷者や犠牲者が従業員や家族の中にいなくてよかった」と鈴木社長は振り返る。このとき7割の社員が避難所に避難したか車中泊の状態だったという。
対策本部前に避難した社員は朝方自宅に帰し、対策本部要員が工場内の確認にあたろうとしたが、建物が安全か、中に入れるかがまずわからない状況だったという。
ところが、朝早くにゼネコンから建物診断ができる専門官が工場を訪れた。前震のとき、本社が連絡をとり、さらに本震後、早朝から現地に行ってもらうように手配してくれていた。「日常的にゼネコンとは連携をとっていましたが、まさかこんなに早く来てくれるとは思いませんでした」と鈴木社長は語る。
さらに、食料などの支援物資も早朝、現地に届いた。これも前震後に本社が送ったもので、物流が混乱するより早く届けられた。十分な備蓄はしていたが、社員の家族分も含めて調達してもらったことで助かったという。
施設内は、内壁が剥がれたり、天井からパネルが落下するなどの被害は出ていたがゼネコンの専門官からは、建物の躯体は安全的に問題ないと報告を受け、午前中のミーティングで集まった社員に、内部に入れることを伝えた。
ラインは装置が定位置からずれており、復旧にかなりの時間が予想された。クリーンルームでの生産体制のため、装置だけでなく、天井崩落の修復も含め、空気中にほこりが舞わない状態まできれいな状況にしないと再稼働できない。
本社では、この地震の直後に先遣隊3人を現地に派遣し、同日夜までに工場にたどり着いた。3人は、神奈川と静岡の生産技術部門に勤務し、熊本工場が建設されたときに設備を担当した技術者。何からどう復旧していいのか現場以上に設備の知識がある。
彼らが必要な資機材を手配し、現場で必要となる人材なども本部側との調整にあたった。

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