2016/07/25
誌面情報 vol56
目標を上回る再稼働
本社が事業部ごとのBCPで定めているフィルム事業の「目標復旧時間」は1カ月。インフラの復旧状況によっても異なるが、大まかな目安として設定している。顧客には、在庫や、神奈川と静岡工場での代替生産により製品を届ける計画にしているが、富士フイルム九州の生産能力のすべてを補うことはできないため、早期復旧戦略を組み合わせ、顧客のニーズなどを鑑み、必要なラインから復旧させることにしている。
現地の災害対策本部では、対策本部と本社から派遣された3人の先遣隊が中心となり、18日には復旧基本計画案をまとめ、19日に正式に決定した。
その間も本社からは追加の応援要員が派遣され、必要な施工会社からも人材を集めた。最大で1日200人体制の支援体制が整えられた。
人材の交通手段や宿泊先を調整したり、送られて来た物資を仕分けするロジスティックに優れたスタッフも本社側が選定して送ってくれた。「こうした作業を現地の従業員でやると、肝心な復旧作業の手が止まってしまう」と富士フイルム九州執行役員の鎌田光郎氏は語る。
現地スタッフは工場の再開に向け集中し、その中で困ったことは本部側に要請し、必要な支援を受けられる体制が構築されていた。
電気は16日朝には復旧していたが、水がしばらく濁る状況が続いた。その間、設備の復旧を進め、BCPの目標復旧時間を大幅に上回る再開を達成した。4月24日に試験的にラインを再稼働させ、4月30日には、地震発生による全ライン停機後、最初となる製品が製造された。4月19日に正式決定した復旧基本計画よりもさらに5日早かった。その後もラインを次々に再稼働させ5月22日には完全復旧している。
社員へのサポート
社員の多くは5月中に普通の生活を取り戻した。富士フイルム本社総務部統括マネージャーの井瀬純氏は、「自らが被災しながらも復旧に取り組んでいた従業員の皆さんに対し、本社としてもできる限りの支援を行いたいと考えた」と話す。
工場では、従業員へのサポートとして、食堂での昼食を5月8日まで施工会社も含め全員に無料で提供したほか、特別休暇の付与、遅刻・早退・外出の許可、生活支援物質の配布などを行った。ただし、井瀬氏は「今回、従業員の支援策はあらかじめ用意しており、必要な支援をその都度実施したが、これほど重大な被害を想定した支援策は用意していなかった。例えば、家屋が崩壊してしまったような社員に、どんなサポートをすべきなのか、といったところまで、しっかりと想定して組んでおけば、早期の段階で従業員の方に提示することができる」と課題を挙げる。
本社CSR推進部コンプライアンス&リスク管理部統括マネージャーの水野裕介氏は「3.11のときは、情報収集にすごく手間取った。電話してもつながらない状況だった」と振り返る。
当時、東京六本木本社の総務部に勤務していた富士フイルム九州取締役執行役員の布留川朗氏は「東日本大震災の経験があるからこそ、ここでも繰り返し訓練に取り組んできた。熊本は地震災害が少ないと言われていたが、我々は常に災害に対する意識は持ち続けてきた」と話している。
誌面情報 vol56の他の記事
おすすめ記事
-
企業理念やビジョンと一致させ、意欲を高める人を成長させる教育「70:20:10の法則」
新入社員研修をはじめ、企業内で実施されている教育や研修は全社員向けや担当者向けなど多岐にわたる。企業内の人材育成の支援や階層別研修などを行う三菱UFJリサーチ&コンサルティングの有馬祥子氏が指摘するのは企業理念やビジョンと一致させる重要性だ。マネジメント能力の獲得や具体的なスキル習得、新たな社会ニーズ変化への適応がメインの社内教育で、その必要性はなかなかイメージできない。なぜ、教育や研修において企業理念やビジョンが重要なのか、有馬氏に聞いた。
2025/05/02
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方